今日のエッセイ-たろう

どうするニッポン。水大国の行く末。 2023年7月6日

日本は水資源大国だと言われている。陸地がさほど大きくないにも関わらず、利用できる真水の量が多い。日常的にも雨がふるし、台風もあれば梅雨もある。中央山脈には雪が積もっていて、山が保水力を持っている。供給量も多いうえに、一定の保水力とろ過システムを天然で備えているからだという。

日本料理はこの水に支えられて発展してきた食文化だ。昆布出汁も鰹出汁も、日本の軟水あってこそ。発酵食品が異常とも思えるほどに多いのも、日本の気候や水に依存している部分がある。そんな日本人が一日に消費する水の量は287リットルだと国土交通省の発表にある。世界平均を上回っているのだが、それは水資源に乏しい国を含めての数値なので贅沢をしていると言って良いのかどうか。

何もしなくても水は流れて海へと注ぐ。その過程で人間が利用させてもらっている。そんなふうに考えれば、さして問題にもならないはずだ。しかし、いま問題になっているのは水循環のサイクルにおけるスピードやバランスが崩れてきていて、そろそろ真剣に考えなければならないというフェーズに突入しているということだろう。

日本は年間降雨量は世界平均の2倍ほどもある。けれども、一人あたりの降水量はさほど多いとは言えない。人口密度が高いのだ。頭数で割ってしまえばそうなる。それでもなんとかやってこれているのは、自然が保水してくれていることと海外から輸入していること挙げられるだろうか。ヴァーチャルウォーターである。

ヴァーチャルウォーターというと、食料の輸入が話題に上がる。穀物や野菜を生産するのに必要な水は、生産地の水資源に依拠している。飼料を必要とする畜産業は、飼料を育てるための水と動物を育てるための水が必要になるが、それらは日本の水資源ではない。出来上がった食材として輸入しているから、実感することは少ないと思うけれど、実に多くの水を消費している。

食料以外にも洋服は多くの水を消費して作られている。いろんな計算があるので明確な数字を提示しづらいところだが、ジーンズ1本のために必要な水は飲水に換算して7年分にも相当するらしい。綿花を育てるところから、製糸や染や縫製でかなりの水を消費している。原材料の生産工場の多くは、比較的水資源の乏しい地域にある。にも関わらず、洋服というカタチでヴァーチャルウォーターを輸入していると言い換えられるのだろう。

洋服に関しては、なるべく長く大切に使い続けることが求められるということか。アパレル業界は反発するだろうけれど、世界中で消費される水の内20%が洋服に変わっているということを考えると、経済合理性だけで考えるのは限界に近いのだろう。

日本食文化に話を戻そう。日本料理の特徴の一つに、豊かな海産物がある。魚介類を用いた食文化はたくさんあるけれど、日本のそれは群を抜いている。周囲を海に囲まれた国土は、その環境から海洋国家であると言える。

日本の豊かな漁場は、山によって作られている。日本の国土は傾斜のきつい山が大半を締めている。降り注いだ雨は、あっという間に海へと流れ込む。大陸のそれとは比べ物にならない。大陸の河川を見慣れている人が見ると、日本の河川はさながら滝のようだと表現するらしい。

この急峻な川のお陰で、山から溶け出したミネラルが海へと注ぎ込んでいる。そのおかげで近海はミネラルが豊富になり、プランクトンや貝類などが方に育つ。そして、それを求める魚たちがやってくるというサイクルだ。

じっくりと染み出している間はいいけれど、短時間で大量にミネラルが溶け出してしまうと問題がある。ミネラルが多すぎる海には赤潮が発生する。山がミネラルを蓄えるスピードよりも早くなれば、土地は枯れていく。土地が枯れれば、水が持っている栄養が減る。困るのは海と水田。

小さな山を一つ崩すだけでも、川下の漁場は変化させられるという。もし、中央山脈に穴を開けたらどの程度の影響が出るのだろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。リニア新幹線には期待が寄せられている。ぼくもその一人だ。けれども、中央山脈に穴をうがつことには賛同しかねる。静岡県がごねている。という捉え方が一般的だし、県が主張している論理も微妙だなとは思っている。けれど、海洋資源である魚介類や、水資源を土台とした食に携わる者としては、水循環についてもっと慎重になって考えて欲しいと思う次第だ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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