今日のエッセイ-たろう

フードベンチャーに欠かせない要素。2022年12月26日

2022年12月26日

新たな食文化が一過性の流行でシュリンクしていくか、それとも文化として定着していくか。いろいろと理由はあるのだろうけれど、結局のところ「うまい」にかなうものはないのではないだろうか。

人気の理由は色々ある。近年だったら「健康」がテーマになることも多い。最近だと地球環境にやさしいというのも加えられるだろうか。珍しいということもそうだし、時代によっては財力や権力の象徴として人気になったものもある。知らないと流行に遅れていると思われてしまうから。そんな理由だって、現代に限らず他の社会でも見られる現象だ。

最近、食にかかわるベンチャー企業がたくさん登場している。全てではないかもしれないけれど、ぼくが知る限りは社会的な意義を追求している企業が多いように見える。それだけ、未来の食が重要な課題になるということを示す現象だろう。

それぞれの企業によって、視点が違うし、取り扱っているテーマも違う。だから、そこから生まれるプロダクトは違ったものになる。一見して違うコンセプトのプロダクトのようだけれど、同じ課題に取り組んでいる。実際に話を聞いてみるとそういったこともある。逆に、似たようなプロダクトだけれど、解決したい社会課題が別物だったりする。とても興味深い。広告を見るだけでもそれがよく分かる。

何年も前に起業して、最近になって事業拡大して上場した企業もあれば、今まさに産声をあげたばかりの企業もある。社会課題を解決するためとは言え、それが経済の仕組みの中で駆動していかなければならない。良い悪いではなく、そういう社会なのだ。

人気が出て、市場に多く受け入れられることで成立する。そして、一定以上の時間、支持を得ることで定着していく。大雑把に分解すれば、こういったステップだろうか。

このステップを乗り越えて定着したものが、新たな食文化となっていくし、企業としても成長していくことになるのだろう。では、そのために必要な条件はなんだろう。

美味しいこと。手軽に購入できる価格であること。生産性が良いこと。配送が可能であること。理解されやすいこと。生活に取り入れやすいこと。健康的であること。地球環境にやさしいこと。などなど。分解して考えればいくつも挙げられるだろう。その中で一番強いのは、やっぱり美味しいことなのだろうと思う。というのが今日の話だ。

ちょっとくらい面倒だとしても、それが抜群に美味しければ人気になる可能性は十分にある。手軽であればなお良い、というくらいのものだ。美味しいだけでは人気商品にはならないかもしれないけれど、手軽さというもう一つの特徴があることで成長していくだろう。同じ様に、美味しくて安いというのも良い。健康的であり、なおかつ美味しい。

こうした組み合わせがキーになりそうだ。ただ、「美味しい」を外してしまうと、途端に空気は変わってしまう。安くて健康に良いが、美味しくない。手軽で地球環境に優しいが美味しくない。便利で生活に取り入れやすいが美味しくない。文字にしてみると、この組み合わせには「美味しい」というファクターは必須のように見えてくる。まぁ、何をもって美味しいとするのかが難しいところだが。

料理人としてよく感じるのは、なんだかんだと「うまいっ!」の一言が最強なんだと思う。たべものラジオでは、いろんな食の背景を紹介していて、それを知ることで食卓の食べ物に愛着を感じたり美味しさが増したりする。それはそれで間違いないと思っているし、だからこそ続けている。と同時に、実際に食べてみて心が震えるほどに「うまいっ!」と感じた瞬間には、それまでのストーリーが一瞬にして吹き飛ぶというのも真実だったりもする。

食の楽しみ方として、2つの道がある。ひとつは、完成した料理やその演出を受け取ること。映画や絵画を鑑賞するのと同じだ。もうひとつは、作られる過程を楽しむこと。板前割烹やスシ屋では、料理人の巧みな技術を見て楽しむことが出来る。映画や絵画の制作過程をドキュメンタリー番組にして配信ようなものだ。

「うまいっ!」は、前者に対する心の動きである。理屈を抜きにして、ただただ完成品に感動する。それだけだ。感動というのは、世にいう「泣ける」ではない。あれは、ただ涙が出る演出がされているだけのことが多い。心があらゆる方向に揺り動かされることで、得も言われぬ体験を味わうことを感動という言葉で表現している。というのは、個人的な定義だが。

まぁ、どちらの楽しみ方も良いものだと思っていて、それぞれに味わいが違うのがまた良いと思っている。ただ、最終的な完成品がマズイのではしようがない。その辺りのところは、食産業に携わるものとしては肝に銘じて置かなければいけない。

今日も読んでくれてありがとうございます。自分のことを棚に上げちゃうんだけど。画期的なアイデアで生まれた商品でも、美味しくないものがあって、しばしば見かけるんだよね。作りたてでもないし、個別最適化が出来るわけでもないから難しいんだろうけどね。なんとなく、売れるための味に傾斜し過ぎちゃってるんじゃないかって気がしているんだ。わかりやすくて濃い味付けとか。だけど、それって長続きしない傾向があるんだよね。あくまでも歴史的傾向だけど。やっぱり、直感的にうまいと思える味っていうのが、持続可能な食産業の基本なんじゃないかなあ。

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武藤 太郎

1988年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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