今日のエッセイ-たろう

再発見なのか。それとも再構築なのか。 2023年10月3日

日本料理や日本文化、日本の伝統って一体なんだろう。いろいろと勉強すればするほどわからなくなってしまうんだ。豆腐はたしかに日本の伝統食品だと言われているのだけれど、元々中国のものだし、日本以外のアジアの国々では広く食べられている。日本式という冠をつけるのなら、日本独自の文化ってことになるのだろうか。

そんなことを言ったら、ラーメンもカレーも同じだよねってことになる。確かにその通り。個人的には、ラーメンもカレーも和食カテゴリーで良いのじゃないかと思っているのだけれど、それを論理的に根拠を付けて述べよと言われると、少しばかり窮する気がするんだよね。ちょっと面倒だなってのもある。

そうこう考えていくと、そもそも海外からの影響を受けていない日本らしいものってなんだろうなって思うようになる。食分野ではないけれど、過去にも同じようなことを考えた偉い人がいて、その方の見方を参照するのが良さそうだ。江戸時代に活躍した国学者本居宣長先生である。

本居宣長についてしっかりと学んだわけではないから詳しいことはよくわからない。ただ、ぼくが知っているのは「海外文化がやってくる前の日本の文化」を知ろうとした、ということくらい。そういう視点で、源氏物語を読み解き、「あはれとは何か」を思考し、古事記伝を記した。

どうやら、和歌というのがひとつのヒントなんだろうな。よく知られているのは短歌か。わずか31文字の中に、世界観や風景や心情が詠まれているという、あれだ。その後松尾芭蕉が俳諧の発句、のちの呼び方なら俳句が確立されて、もっと短い詩が詠まれるようになるっていうんだからね。なんだか、日本人は制約するのが好きなんじゃないかって思えてくる。

歌枕っていうのがあるよね。歌によく登場する地名のこと。元々はもう少し違う意味だったらしいんだけどさ。面白いと思うのは、地名を歌に詠むことで、過去に同じ地名で詠まれた名句を想起させるということ。

仮に「掛川」を詠んだ有名な歌があるとするよね。のどかだとか、茶の香りがするとか。ここで道連れになった旅人と出会ったとか。まぁそんなことを詠んだとする。で、別の人が歌に掛川を詠む時には、元の有名な歌のイメージを持ち込むらしいのだ。出会いとか別れみたいなこととか、旅行きとか、茶園とか。で、元の歌を知っていることで、とても奥行きのある歌に仕上がるというのだ。

なんだかガンダムを見てアメリカ独立を想起するとか、ワンピースを見て大航海時代を想起するとか、そういうのと似ているのかな。

ただ、松尾芭蕉や本居宣長の時代になると、そうした文化も忘れられてしまっていたり、知っていても少数になったそうだ。まぁ、貴族文化が武士階級や庶民階級に普及しなかった、というのがぼくの解釈なんだけどね。

松尾芭蕉は、彼の歌や奥の細道を通じて、当代に文化を再び出現させたのじゃないかな。しかも、一部の教養人しか知らないような言葉ではなく、わかりやすい平易な言葉を使って。おかげで、一度かすれてしまった歌枕や歌の世界が再注目されるきっかけになったんだよね。

西行の時代とは違ったものにはなってしまったけれど、その代わりに新たな文学として古代の心を出現させた。これって、まさに「日本らしさの再構築」っていうこと。いま、いろんな企業が取り組んでいるよね。世界に対して日本の素晴らしさをアピールするとき、現代日本人、外国人に伝わるとか面白がられる形にカスタマイズしてリクリエーションする。400年前のおじさんがすでにやっていたんだね。

今日も読んでくれてありがとうございます。西行が訪れて短歌を詠んだ歌枕を、500年後に芭蕉が実際に訪れる。そこで再発見したモノを、当代に再構築した。なんて学説があるかどうか知らないんだけど、そういう解釈も面白いんじゃないかな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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