季節感でちょっと素敵に。 2022年10月31日

まだ秋、なのかな。今年は春と秋がとても短い気がするんだよね。料理の献立を考えるときには、季節感を大切にする。というのが日本料理の特徴のひとつ。これって、意外と悩むところなんだ。

季節「感」というのがポイントかな。

体感に合わせるというのがひとつ。田舎に暮らしていると、そこかしこで紅葉を見かけることくらいはある。じっくり見るとか、紅葉狩りとまではいかなくても、なんとなく秋を感じられる景色が身近にある。で、普段の生活の中で秋を感じている人に対して、秋らしさを演出した献立にするというのもひとつの考え方だ。景色や気温やファッションなどでも秋を感じるよね。そこに、普段とは違った視点で秋を演出する。

これ、ファッションに似ているかもしれない。他人の目線で見た季節感。そういうのを感じるという楽しみ方もあるだろうな。それから、普段は食べないようなモノ。自宅で料理するときに人参を紅葉の形にするという人は少ないと思うんだ。庖丁技術だけじゃないけれど、そういった料理の工夫自体が普段と違う。あと、食材もあるよね。松茸とか。季節「感」を他人が演出するとこんな感じになるのか。きっとアートもそういう目線で見ているのかもしれないね。

暦に合わせるというのもある。秋と呼ぶには寒すぎる。もう、冬ってことで良いんじゃない?とさえ感じる日があるよね。連想するのは鍋料理かな。だからといって、秋という風情を楽しまずに今年を終えるのも寂しい気がするんだ。だから、肌感覚とは少しズレるけれど、あえて秋らしさを創出するというもひとつの表現方法かな。

都会に暮らしていると、田舎に比べて秋を感じる瞬間が少なくなる。公園の木々や街路樹や、花屋の店先に並んだ花。そういったところで見かけることはあると思うんだけど、気をつけていないと見落としてしまうかもね。なんだか最近寒くなってきたな。そのくらいの感覚で暮らしているかもしれない。いや、わからないけれど、ぼくにもそんな時代があったから。なんだろう。季節は確実に変わっているのだけれど、春夏秋冬の風情ではなくて、ただの環境変化。一日で言えば、朝が来て昼になって夜になるというような、ただの時間経過として捉えてしまうこともありそうじゃない?

まぁ、都会か田舎かという話じゃないかもしれないけどね。忙しいとか、感性とか、環境とか、いろんな切り口で考えた方がいいのか。もう、個人の問題かもしれないけど。

だからこそ、料亭に行ったときくらいは「季節感」に触れられるのが良いんじゃないかな。そんなに毎日行かないでしょう。ぼくだって、こんな仕事でなかったら滅多に行かない。だいたい、会席料理っていうのはハレの日の食事なんだ。毎日だったらケの食事になってしまう。ああいうのは、たまにだから良いんだよ。

ハレの日って、別にお祝いじゃなくても良い。自分で作り出したって良い。海外旅行、小旅行、街歩き。こういうのも言ってみればハレの日。良い表現が思いつかないんだけど、心電図みたいな表示で考えたら、真っ直ぐな状態がケで、上下のどちらかにグラフが触れているのがハレっていう感覚。旅行に行くほどじゃないけれど、ちょっと非日常っぽいことをしてみる。その感覚で、料亭を選択肢に選ぶのも良いと思うんだよね。実際、うちの店なんかは多いよ。顔合わせや結納みたいな行事で利用する方も多いけど、そういうのとは関係なくいらっしゃるというお客様も結構いるんだ。

日本料理のカテゴリとしては、結納や葬儀などのフォーマルな行事食だったら本膳料理が本流。もう近年では滅多に選ばれなくなったけどね。本膳料理こそが、室町時代以降の日本料理のフォーマルなんだ。じゃあ、会席料理ってなんだって話なんだけど。町人が楽しむちょっと良い酒宴の料理がスタート。本膳料理を崩して発想していったんだろうね。もっとカジュアルな感じなの。町の寄り合いとか、芸者さんを呼んで遊ぶとか、俳諧の席とか、そういう遊びの食事。食事なんだけど、酒宴といった方がしっくりくるな。

だからね。なにが言いたいかっていうと、もっと料理屋をレジャーとして捉えても良いと思うんだよね。って話。うちの店じゃなくていいから。心の栄養とか、そんな意味で楽しんだら良い。旅行、コンサート、映画、ドライブ、というのと同じ感覚でいい。友達と飲みに行くのも、ちょっと似た感覚の場合もあるでしょう。その時に、ちょこっと季節感が演出されていると「いいねぇ~」って感じになるじゃん。

今日も読んでくれてありがとうございます。たいした話じゃないんだけど、生活の中にはちょっとした楽しみの工夫があると良いよね。なんだか、こう。ちょっとだけ豊かな気持ちになれる。ちょっと余裕みたいなのが生まれる。そういうのが幸せってことで良いんじゃないかな。

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