掛川百鬼夜行と報徳のまちづくり。2022年11月2日

今日は、先日掛川で行われた「掛川百鬼夜行」のはなし。平たく言って、和風ハロウィンと表現されることが多かったようだ。正直、事前の感覚としてはそこまで和風にならないんじゃないかと思っていたんだけど、蓋を開けてみたら結構「和」の衣装を着ている人が多くて面白かったな。

友人が主催していることもあって、一応スタッフに名を連ねていたんだけどね。事前の準備に関してはほとんど何もしていなくて、なんだか申し訳ない感じだった。なにか手伝えることはないかと聞いたら、メインステージの司会を依頼された。その程度のことであれば造作もない。簡単な打ち合わせをして、あとは当日のノリでなんとか。

そうそう、友人と二人で打ち合わせをしているときに彼が言っていたんだけどね。地方団体で主催しているイベントだと、かなり綿密に打ち合わせをしていて、リハーサルも当日だけじゃなくて別日に一日使っていることもある。それってスゴイよねって。そんな話だったんだけどさ。今回に関しては、前日に一部の設営を行ったことと、当日直前に音響のチェックと細かな動きの確認をしたくらい。この差はなんだろうねって笑っていた。

まぁ、リテラシーの差なんじゃないかな。今回のイベントは有志の集まり。やりたいと思って自ら参加した人たちがほとんどだからね。結果として、ある程度イベント経験のある人が多くなった。地域団体だと、イベントに特性を持っていない人も関わるようになる。そういう人は他の事業で活躍するんだけど、みんなでやらなくちゃいけないってことになるからね。その分だけ練習が必要になるんだろうな。

メイン会場は大日本報徳社。掛川市民にはおなじみの場所だけれど、あまり知られていない場所なんだよな。二宮金次郎の教えを学ぶために、明治時代に作られた建物。日本中の小学校に二宮金次郎の銅像があるよね。なぜそれがあるのかというと、報徳社という団体が広めたからなんだ。

で、金次郎が何者なのかを知らないという人も実は多いらしい。県外からの来訪者もあって、少し話をしたのだけれどとっても曖昧。なんとなく偉い人。薪を背負って働きながら勉強している人。と、そのくらいかな。金次郎を一言で表すなら、まちづくりの人なんだと思うんだ。細かい部分は調べてほしい。というか、いずれたべものラジオの番外編で喋ってもいいかな。

二宮金次郎が生きた時代は江戸の末期。あちこちの村を再生させまくってきた。飢饉や社会情勢に飲まれて、苦しい生活を送っていた村が各地にあったんだね。金次郎は、再生するための仕組みを考え出して、人々の心に火を点けた。とまぁ、要約するとそんなところかな。

掛川に二宮金次郎が訪れたことはないんだけどね。教えを受けた人が、掛川の人たちにも知ってもらって一緒にやろう、と決心して大日本報徳社を立ち上げた。お上に頼っているばかりじゃなくて、自ら立ち上がることが大切だと考えたんだね。学びの社として作られたのが、今回のメイン会場となった大日本報徳社の大講堂なんだ。

もう、ほとんど寄付で作られたんだよ。表面からは見えないけれど、天井板の裏側には、当時寄付した人たちの名前が記されている。一生懸命働いて、身の丈にあった生活をする。そうして作ったお金を寄付した。それでも用意できなかった人は、家にあるものを売ったり、なかには戸板などの現物を寄付した人もいたらしい。ほとんどわからないけれど、ところどころに材質の違う木材が使われているのは、そういった事情がある。

誰かに強制されたわけじゃない。多少は雰囲気に流された人もいたかもしれないけれど、寄付をしなかった人が村八分にあうようなこともなかったと聞いている。自発的に動いたんだろうね。

建物そのものも、たしかにいろんな工夫がなされていて興味深い。建造物として眺めるだけでも素晴らしい。だけど、本質はそこじゃなくて、自分たちの地域を自らの手で盛り上げていこうという精神なんだと思うんだ。大日本報徳社は、その象徴として掛川人の心の拠り所になっているんだろうな。であって欲しい。

今回のイベントは、有志の集まり。まさに、報徳のまちづくりを体現したのだ。伝統ある建物でライブをやるなんて、という声も無かった。そういう柔軟性があるのも嬉しいよね。現在の日本社会では、尻に火がつかなくちゃ動かない事が多いという。けれど、心に火がついた人は強いよ。そういうのが、金次郎がやってきたことなんだろうな。

今日も読んでくれてありがとうございます。余談だけど、大日本報徳社は日本各地にある報徳社の本社ね。それから、信用金庫の発祥の地なんだけど、それも大日本報徳社が作り出した仕組み。村の人達がまちづくりに励むために、村を耕すために必要な資金をみんなのプール金から出資する。今は、いち金融機関だけど、本質はちょっと違うんだよね。

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