散歩するたべものラジオ 2022年11月14日

最近は散歩をするのも少なくなっちゃったな。時間を作れば、散歩くらい出来ないことは無いはずなんだけど、なかなか億劫でね。他にやることも多いもんだから、ついつい優先順位を下げちゃうんだ。たまには、スマホも持たずに散歩すると良いよね。

先週の話だけれど、強制的に散歩の機会が訪れた。娘の幼稚園の企画。保護者参加会といって、参観会ではなくて園児と一緒に参加する機会。従来であれば、少しイベントのような企画をして全員参加だったらしい。けれど、このご時世ではそんなことも出来ないから分散型になった。一年を通じて、数人ずつ参加する。参加する保護者の人数は、必然的に数人程度になる。そういうこともあって、特別なプログラムではなくて、幼稚園の日常にお邪魔することになった。お父さん先生って、なんだか気恥ずかしいな。

今回、保護者の参加はぼくを含めて3名。年少さんと一緒に、幼稚園から駅までお散歩する。線路の近くにある広場に行って新幹線や在来線を見る。駅へ移動して、駅前商店街を通って幼稚園に帰ってくる。およそ1時間のお散歩。

これが、衝撃的なほどに面白い散歩だったのだ。

園児の歩く速度に合わせるから、とんでもなく遅い。子どもたちは一生懸命だけれど、大人は一生懸命ゆっくり歩かないといけない。ぼくなんかは歩くのが早いほうだから、ゆっくりのほうが大変なんだよね。で、これが功を奏した。

とにかく、ゆっくりだから周りを見る時間が長いのだ。もうずいぶん昔から知っている町なのだけど、いろんなものを見つける。こんなところに、こんな建物あったっけ?見た感じでは数十年経過しているようだけど。ここにあった調剤薬局が違うお店になってるな。まずは、大人の目線で気がつくことがあった。

子どもたちは、とにかく目線が低い。低い位置から見たときにしか気が付かないこともあるらしい。ほら、木の葉っぱがキラキラしているよ。あんなところに虫がくっついている。というのは、子供がぼくらを見上げるから。ぼくらの向こう側に街路樹の葉っぱが見えるのだ。言われて振り返ると、頭上の数十センチ先に見知らぬ虫が張り付いている。普段、上を見上げて歩くことなんかない。言われてみれば、清々しい秋の晴れ空だ。

そうかと思えば、娘がぼくの手を引っ張る。振り返ると、引っ張ったのではなくしゃがんだのだ。足元に何かを見つけたらしい。ちいさなキラキラした石。ビーズよりちょっとばかり大きいくらいの欠片。ガラスかプラスチックだろう。きっと何年もその辺りを転がったのだろう。角は取れて丸くなり、小さな丸いキラキラした石のようだ。大発見かのように、それをぼくに掲げるその顔は、誇らしげだ。父ちゃん、なくさないように持ってて。

線路の脇にある広場。といっても、広場というほどのことはない。ほとんど人通りのない歩道のちょっとした空間。自動車が2台も入れば身動きが取れなくなる程度の空間。そこからは、電車がよく見える。駅が近いので、どの電車も速度を落としているのだ。駅を離れたばかりの電車が、じわりじわりと速度を上げ始める。電車が来たよー。その声に、園児たちの視線は電車へと向けられる。わぁっと手を振る。視線の先では、電車の運転手が手を振っている。

手を振る子どもたちの反対の手には、ススキやネコジャラシが握られている。ねぇ、アリさんいたよ。興味があちこちへと飛ぶのが、大人には忙しく感じるほどだ。そうこうしているうちに、わぁっと一段と高い歓声。新幹線の登場だ。滞在時間は15分ほどだろうか。こんなにも繊細で、広々と感じた小さな広場。今までにはない感覚だ。

ゆっくり歩きながら、上へ下へ右へ左へと、興味の赴くままに見て歩く。そんな景色の中に、自分なりの面白いものを見つけてははしゃぐ。見る人の身長、知識、背景が違えば、目に入る映像も違って見えるのだろう。

さらさらと流れるように過ぎていく日常も、ちょっと気をつけるだけで面白い。こんな世界の味方があったんだって、こんな綺麗なものがあったんだって。

今日も読んでくれてありがとうございます。たぶん、たべものラジオで表現したのは、こういうことなのかもしれないな。ちっちゃなエピソードを取り上げては掘り下げてみて。ねぇみんな、こんなところに面白いものがあったよ。ホントだ。あっちはどんなだろう。お散歩楽しいね。

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