今日のエッセイ-たろう

無料サービスのコストは誰が負担している? 2022年12月27日

「お茶が有料なんですか?普通のお茶はありますよね?」

久しぶりに言われたなあ。最近はそういうお客様も少なくなってきたんだけどね。そういえば、ネット上の口コミでも「有料だけど、美味しいお茶が飲めます。」というものも一つではないな。

批判を覚悟で言ってしまうと、正直不快な気持ちがある。お茶は無料であることが当たり前だと思っていることにだ。それは、その人個人に対してでもあるけれど、主に社会全体の風潮に対してだ。だいたいね。ウーロン茶が有料で提供されることには何の違和感も持たないのに、緑茶が有料だと変だという感覚のほうがどうかしているのだと思っている。というか、思うようになったんだけど。

掛川という町は、お茶の町である。これはもう揺るぎない事実。それくらい茶畑も多いし、お茶に関わる産業がとても多い。だから観光資源として、それを有料にしていこうっていう気持ちもある。だけど、それ以前にぼくらは「お茶農家さんの気持ち」を知っているから、無料にしたくないのだ。茶産業に携わる人たちの思いをしっかりと味わって欲しい。そして、その茶産業に携わる人たちのなかに、僕ら飲食店もちゃんと含める必要があると思うんだ。

飲食店というのは、その業態にもよるけれど、どこかに食材や料理の発信者の側面がある。知らなかったけれど、この野菜って美味しいんだね。今度見かけたら買ってみよう。こんな調理方法があるんだ。だったら、今度試してみよう。お茶って、こんなにバリエーションがあって、いろんな美味しさがあるんだ。家でもちゃんとお茶を飲んでみよう。そういう気持ちを喚起する装置。変な表現だけど、食材の試食をしているようなものなのだ。新しい味に出会う場所と言っても良いかもしれない。

であばこそ、コストをかけてちゃんと提案したい。茶葉だって上等のものを用意するし、飲み比べが出来るような仕掛けも作るし、急須だって良いものを用意する。コストというのは、金銭的なものだけじゃなくて労働力や仕組みの構築っていうのもあるからね。

それに、そもそも価値のあるものには相応の価格がついていることが正常だと思うんだ。技術の高い職人が丁寧に編み上げたセーターと、機会で大量生産したセーターが同じ価格なわけないじゃない。ってなことを、表現するためにも有料である必要があると思うんだよね。人間ってさ。無料のものに価値を見出しにくいって言う傾向もあるしさ。自分の価値基準がある人は別だけれど、分からないものはその価値を価格で判断することもあるじゃない。貨幣のモノサシ機能ね。こっちのほうが高いからきっと良いものだろうっていう感じ。

そもそも論だけど、コストを掛けて準備された商品を無料にするということは、そのコストは誰かが吸収させられるというのが基本だよね。無料にしてくれっていうのは、誰かにそのコストを被ってくれって言っているようなもの。

では、そのコストを負担するのは誰か。一番わかり易いのは飲食店だ。実際に、過去はそうだったし。あとは、茶産業のどこか。一番多いのは農家に負担がよっているケースかな。静岡県に限った話ではないけれど、茶葉の卸値は長らく停滞している。掛川茶においては、毎年足りなくなるくらいに売れるのに価格が上がっていないのだ。アダム・スミスの言う神の手が働いていないということだ。茶商が購入する金額を上げてくれないということもある。けれども、茶商にしたって簡単な話ではないんだ。高く仕入れると、その分高く売らなくちゃいけない。そうすると、売れなくなることもある。

だから、しっかりと価値に見合った金額で販売する。うちで仕入れているお茶はそれだけの価値があると判断したものだ。いろんな種類のお茶を飲んで、ちゃんと味がわかるようになって、いろいろと勉強して。やっと価値を理解して、それから価格を設定しているつもりなんだ。

でね。最初の話に戻るのだけれど。

お茶が有料であることが不自然だと感じるほうが変なんじゃないかって思うんだよね。歴史を振り返ってみても、お茶の提供が無料だったことなんてほとんどない。料理屋が登場する以前から、お茶を一杯いくらかで売るという商売が登場している。例外的にお茶を無料で提供していたらしいのは、札差などの超高額の顧客が訪れた場合のみ。なにせ、一晩で数百万円のお金を落としてくれる上客だからね。

昭和後期になって、飲食サービス業が激しい競争環境にあったとき、競合他社と差別化する必要が出てきた。その時には、ありとあらゆる無料サービスでお客の取り合いが起きたんだよね。その中にお茶も含まれていたっていうだけのこと。一度、無料で提供し始めると、なかなかもとに戻れなくなるのは興味深い現象だ。飲食業だけじゃなく、さまざまな業界で見ることが出来る。消費者としてはありがたいのだけれど、やはりそのコストは誰かが負担しなくちゃいけない。そういうしわ寄せがあちこちにあるのが現状なんだろうな。めんどくさいけれど、誰かがそのシワを引っ張って伸ばさなくちゃ。

今日も読んでくれてありがとうございます。リスナーさんだったら、もう何度も聞いたことのある話になっちゃった。そうそう、冒頭のセリフにもあるけれど、普通のお茶ってなんだろうね。無料って言いたいんだろうけど。高級茶が有料なのであって、普通クラスや低クラスは無料だという認識なのかな。全部有料に決まってるじゃん。うなぎの松竹梅は、価格差があるとしても無料ってことは無いでしょうよ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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