理想とバグのバランス 2022年8月11日

たべものラジオは、食べ物を巡る人間の挙動やら文化の変化やらを通して、今目の前にある食事がどのようにして存在しているのか、を感じることを主旨としている。というと硬い表現かな。当たり前のように感じている食事も、ちゃんといろんな人の思いや歴史があるんだなあってことを感じると、なんだかもっと愛おしく感じてしまうじゃない。

それと同時に、食の未来を考える上でも役に立つと思っているんだ。フードロスとか食糧不足とか自給率とか格差とか、いろんなことが社会課題として語られている。それらを一挙に紐解くのは難しい。未来を考えて理想形を構想するのにしたって、現在をしっかり把握しなくちゃいけないんじゃないかと思うのだ。現代のシステムに無理や無駄があるのがわかったとしてさ。それでも、決して頭が悪いからそうなったわけじゃないと思うんだよね。

沢山の人の食を賄うためには、コールドチェーンの構築っていうのは人類の夢だったんだろうね。フランシス・ベーコンが晩年鶏肉の凍結による保存を実験していたところから、ずっと沢山の人が考えてちょっとずつ実現してきた。現在はそういう思いや努力の積み上がったところにちょこんと乗っかっている。だから、なにも知らないで「これはダメ」と一刀両断するは、ちょっとどうかと思うんだ。ちゃんと知った上で、文脈を踏まえた上で、じゃあどうするかって話になるんだとね。

懐古主義になるのとは違う。学ぶというのはそういうことだと思うんだ。人間の直接的な経験には限界がある。飲食店でお茶が無料で提供されるのが当たり前だ。有料なんてけしからん。まだまだ、そういう人がたくさんいる。たしかに、その人が生まれてからずっとそういう社会だったよね。だけど、日本人のお茶への関わり方はそうじゃなかった。もっとありがたくて、お金を払ってでも飲みたいというものだった。それが当たり前だった期間のほうがずっと長い。これは、経験では感知できない領域。だって、生まれる前のことだから。何世代もね。

だから有料にすべき、だと考えるのもちょっと安直だよね。本来有料でも求められるほど価値がある存在だった。そういう事実を確かめる。そう、事実を知ることだ。今、なぜ無料が当たり前と言われるようになったのか。もう、お茶の価値が復権することはないのだろうか。現代に合わせて考えると、何をすればよいのか。ということを考えるための材料になるという感覚かな。

本編では、いわゆる日本史や世界史の話もしている。はじめはそんな話をするつもりもなかったんだけどね。やっぱ、無理だった。学校で習うような歴史も知っていないと、食文化の歴史をたどるなんて無理。嫌いじゃないから良いんだけどね。ついでに勉強できて一石二鳥だ。ってくらいに思ってる。

ついでに勉強した中で、とても有意義な学びになったのは秦漢帝国の部分だ。つい最近のことだね。勉強したのは。

まず前提。

氏族制という、ある特権階級が権力を持っていて、その血族が支配する。貴族主義が長い期間あった。それが秦の前の時代。これじゃいかんよね、ってことで秦の始皇帝は中央集権的な皇帝制をしく。すべての領地は皇帝のもの。統治するのは、中央から派遣された役人。だから、土地を巡って争うのはやめようねって。当時の社会システムとしては、かなり先進的で優秀だった。というのは、のちの隋唐時代にわかることだ。

ところがね。元々領地を持っていた権力者がムカつくわけだ。そりゃそうだ。返せってことになるんだけどさ。国のためならいいじゃん、という「全体」を主語にした考え方と、私の権利を守るべしという「個」を主語にした考え方がぶつかる。完全に個人じゃないだろうけど。領邦とか、元々の国という単位で考える。ぶつかった結果、秦が滅びることになる。

でね。面白いなと思ったのはここから。漢帝国の挙動なんだよね。

たぶん、劉邦も秦の中央集権的システムが理想だってことは気がついていたんじゃないかな。だけど、無理がある。急すぎるんだろうね。だから、直轄地は中央集権的に役人が統治するスタイルにしておいて、残りは領邦国家として従属させることにした。両方を並行させたんだよね。そのうえで、ちょっとずつ領邦国家の力を削ぎ落としていく。

旧時代のシステムを取り込んだってことは、確実に反乱が起きるリスクが高いということだ。直前までの戦国時代がそうだったから。実際に、暫くの間反乱が起きる。やっぱよせばよかった。中央集権にしておけばよかった。ではない。ここが面白い。はじめから、この程度のバグが発生するのは織り込み済み。というね。現実を見ているよなあ。

バグが発生するのは致し方ない。だったらバグをコントロールしよう。そこまで考えていたかどうかはわからない。偶然クリアできただけのような気もする。それはそれとして、バグをコントロールするという気づきがあって面白いな。

2つのパターンを考えてみる。バクの発生率が5%に抑えられたシステム。だけど、そのバグがいつ、どこに、どの様なカタチで表出するかがわからない。もう一つ。バグの発生率は20%もある。だけど、そのバグがどんなものでいつ発生するかが予測可能。数字は適当ね。ホントはこんなに大きいと使いものにならないんだけど。

後者のほうが、対処しやすい。毎回同じミスをする助手だけど、それ以外はほぼ完璧。だとすれば、その部分だけカバーすれば全体としては回る。初めから織り込み済みという発想ね。これ、なかなかの度量が求められる。懐の深さ。それと同時に、冷静な分析力。けっこうスゴイことだよね。企業単位でもなかなか難しい。個人でも出来ないことのほうが多い。これを国家レベルでやるってスゴイ。

冷静に観察して、対策を講じて、ロングストーリーをデザインして同時に走らせる。

今日も読んでくれてありがとうございます。現状認識が出来ていないぼくが言うのもなんだけど。今までのシステムのバグに対して、完璧な解を求めてしまう傾向が強いような気がするんだよね。理想主義っぽいところがある。だけど、完璧なシステムなんて存在するのかね。まだ実例が無いのではないだろうか。だとしたら、多少なりのバグを飲み込みながら走ることが出来るシステムというのは、けっこう力強いのかもしれん。こりゃぼくの能力を超えた話だな。

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