私にとっての「青」は、もしかしたら他の誰かにとっては「黄色」かもしれない。 2023年8月1日

子供の頃からずっと疑問に思っていることがある。「僕が見ている青は、他の人にとって同じ青なのだろうか」。たまに話を振ってみることがあるのだけれど、そもそも疑問に思っているポイントが伝わらないことの方が多い。だって、青は青でしょう。ぼくの説明が拙いせいなのだけど、そのうちに面倒くさくなって、この話題自体を避けるようになっちゃった。

同じ時に同じものを見ていたとして、「キレイな青だね」と感想を共有したとする。お互いに「青」であることは認識しているんだけどね。もしかしたら僕が青だと思っている色は、隣の人にとっては黄色かもしれないじゃない。ぼくは、生まれたときからずっと黄色を青だと言ってきたので、ぼくにとってはそれが青なのだ。

こうしたことを証明する方法はないらしい。日常生活で困ることがないしね。目から入ってくる光を脳がどのように認識して像を作り出しているのか。みんな一緒かもしれないし、それぞれに違うかもしれない。見ている世界を完全に共有できないとしたら、それはそれで面白い。

先日、ショッピングモールを歩いていると、目の端で違和感もある景色を捉えた。その売場は家具を販売していて、普段なら落ち着いた空間だ。おそらく高校生くらいだろうか、男性が四〜五人ほどベッドに腰掛けて騒いでいる。日常とのギャップに違和感を覚えたのだろう。

商品としてのベッドの上に腰掛けて、なにやらスナックを食べながらくつろいでいる。さすがに見かねて遠くから声をかける。一人と目があって、気まずそうに仲間に声をかける。ちかくのダイニングテーブルの展示に移って、そこで続きをし始めた。こっちなら文句ないだろう。ギリギリこちらに聞こえるかどうかのボリュームで話し合っているのが聞こえた。

このあと、店のスタッフが気がついて彼らに声をかけていたので、ぼくとのやりとりはここまでだ。

色の認識ではないけれど、これも「見えている世界」が違うという事例のひとつなのかもしれない。ほとんどの人は、「商品見本」もしくは「商品そのもの」が展示されていると思っている。それは確かにベッドだし、ダイニングテーブルで、それらの存在している目的は「人が寝るため」だったり「食事をするため」だったり、「休むため」だったりするわけだ。もし、ベッドに心があったらこう思うだろう。「誰もここで寝てくれないの?」

物は作られた時点でどのような使われ方をするかわからない。ベッドにはベッドの、車には車の生まれた意味があるし、どのように使われるものなのかを想定して設計されている。けれど、そうではない使い方をされることだってたくさんあるだろう。展示というのも一例だし、車を住まいとして利用することだってある。その車の行く末が、海の底で魚の住まいになることだってあるわけだ。モノは、人が行動や言葉などを介した認識によって、何者であるかを定義されると言えるのかもしれない。

そろそろ、思考が面倒くさいことになってきた。

その辺にある石は、石と呼ばれるようになったときから石になる。それを家に持ち帰って庭に飾れば庭石だし、漬物をつけるときの重しにすれば漬物石。誰かを攻撃することがあれば、その時点で武器となる。認識によってモノは変化するとうことなのだろうなぁ。

と考えると、高校生らしき彼らにとって「ダイニングテーブル」の認識は、彼らの知る一種類の認識なのだろうな。家で「ベッドの上で食べ物を食べちゃダメ」と叱られたことがあるのかもしれない。だから、ベッドからは移動したけれど、ダイニングテーブルなら良いという判断をするのだ。

ややこしくも面倒な言葉を連ねてきたのだけれど、もちろん普段からこんなことばかりを考えているわけじゃない。たまたま、事例の一つとして思い出したに過ぎないのだけど、こんなふうに考えて言語化してみたらどうなるだろうと思っただけだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。あいつら変だなと思って怒ったりするよりも、見えている世界が違うのだろうと思えばあんまり腹が立つこともないのかもしれない。可能なら、近づいて言って見えている世界が「ぼくとあなたとで、見えている世界が違う」ということを共有すればいい。違うことが認識できれば、多少なりとも社会のイライラの総数は減るかもしれない。

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