今日のエッセイ-たろう

誰かの代わりに考える、という仕事。 2023年6月27日

大抵の商売というのは、「誰かの代わりにやる」がベースになっていると考えて良いのだろうか。言葉通りに捉えると、「面倒なことを代行する」という意味に聞こえるけれど、「出来ないことをやる」も含まれる。で、「出来ないこと」というのは、時間や労力を割くことが出来ない場合もあれば、能力が適していない場合、向き不向きもある。

少し広く捉えると「誰かの代わりにやる」という解釈も成立しそうな気がしている。

飲食店は、お客様のために料理をして提供している。これを上記の解釈で言い換えると、どうなるだろう。お客様の変わりに料理を作る。これが一段階だとして、階層を深くしていく。時間や手間がかかる作業をやる。それから、練習したり実験したり学んだりしてスキルを向上させる。他にも作業はあるのだけれど、上記のパターンに当てはめて考えると、こんな感じになるだろうか。

何年もかけて何回も繰り返し訓練してスキルをつけてから、数日前から下ごしらえをして、数十種類の料理を作る。これが家庭の夕食だとしたら…。かなりハードだ。それこそ、日常生活が出来なくなってしまう。料理そのものを仕事にするしかないわけだ。

そう、人間が生み出すクリエイティブプロダクトは、一人や二人が頑張ってもどうにもならないようなもの。もし実行しようとすると、その他のことが出来なくなってしまうかもしれないようなもの。で溢れている。

最先端の基礎科学を研究している人もそうだ。研究職に就くまでに恐ろしいほどの勉強をしてきただろうし、言葉通り四六時中研究のことを考えているような生活をしている。みんなの代わりに、その役割を担っているのだ。とてもありがたい。

議員というのは、どうだろう。よく選挙では「実行力!」とポスターに書いてあるのを見かけるのだけれど、それって本質じゃないような気がする。実行するのは行政機構なのだから。その指揮監督が首長ということ。だとすると、議員の仕事は何か。もちろん国会であれば立法。それもそうだけれど、地方議会ではあまり条例を作ることがない。どちらかというと「考える」ことが仕事になっているのじゃなかろうか。

現状の政策は正しく機能しているだろうか。もっと良い方法はないだろうか。改善するとしたら何が良いだろうか。目指したい社会はどのようなものだろうか。行政機構は正常だろうか。より良くする方法はないだろうか。書き出したらきりがないくらいに考えることが多い。考えてまとめたものを、議会で行政に問う。提案する。ということなのだろうと思う。

考えるためには、とんでもない量の学びが必要だろう。現状の政策がどうなっていて、実際の現場ではどのように稼働しているのか。そこに問題はないか。ということは当然として、背景となっている地域社会の状況、ニーズ、至るまでの道のりという周辺。類似事例は他の地域にもあるかもしれない。過去に遡れば参考になる事例があるかもしれない。という情報を集める。

集めただけでは意味がない。それらの情報から何を読み取るのか、だ。解釈と言い換えられるだろうか。そのためには、思考力を鍛えなくてはならない。思考力を鍛える最も近道は、色んな人の「思考の癖」を知ることだろう。あの人だったらこう考える。別の人だったらこう言うだろう。というのは、日常でもよくあることだろうと思う。これを、世界中が認めた優秀な人たちからパクるのだ。幸いなことに、「思考の癖」を整理したものが存在している。哲学だ。

デカルトの懐疑、ヘーゲルの弁証法、ニーチェやサルトルの実存主義、レヴィ・ストロースの構造主義。ざっくりとした本を読んだだけなので不勉強であるのだけれど、ぼんやりといろんな思考パターンがあるのだなということだけはわかった。日本にも江戸期からずっと素晴らしい思想家がいたし、東洋哲学を学んでも良い。

哲学じゃなくても、いろんな思考パターンがあるのだから、解釈するための道具としてあらゆる文学を利用するのはアリだと思う。

広く深く情報を集める。その情報を解釈する。という下ごしらえをしておくわけだ。良い食材を集めて、それをどんな料理にしようか考えたり、下ごしらえを行う作業である。で、本格的に政策を組み上げていくという感じだろうか。

はっきり言って、こんなことをやっていたら日常生活が崩壊するのである。少なくとも、料理屋の仕事をまともに出来る気がしないし、たべものラジオをやっている時間もなくなるだろう。だから、政治家は他のことをしなくても良いようにしている。そういう仕組だと思うのだ。社会契約説みたいな考え方でいくと、こうなるはずだと思っているのだけれど、どうだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。この解釈が良いのかどうか、正直わからないんだよね。ただ、もしぼくが市議会議員だったらこういうこと考えるよね。たぶん、市のホームページだったり役所で入手できる情報は片っ端から勉強するよ。それは、料理を仕事にすると決めた時に勉強したり練習したりしたのと同じことだもの。政治家っていうのも、凄い仕事だよなあ。あ、町内会長の延長みたいなノリは勘弁してほしいけどね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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