農地と都市でコンフリクトする土地利用。 2023年7月7日

16世紀末に行われた太閤検地によると、伊豆6.9万石、駿河15万石、遠江25.5万石、三河29万石、尾張57.1万石となっている。現在の静岡県のエリアの石高は47.4万石。尾張国よりも少ないのだ。室町幕府の守護だった斯波氏が倒れたあと、尾張国を統一した織田家が強かったのは、もしかしたら生産力が背景にあったのかもしれない。今川家を倒すことが出来たのは奇跡に近かった出来事なのだろうけど、その後の躍進を支えたのは地盤の豊かさもあっただろう。

戦国時代まで、農業生産の中心は「山に近い平野部」である。まだ土木技術が未発達だったし、大規模な灌漑工事を行えるような労働力の集約も難しかった。川下でも農業は行われていたけれど、水資源の確保や開拓には時間がかかったようだ。

今でも山に近いほうが土壌の力が強いという話を聞く。宇治が古い時代から茶産地になったのも山と川のおかげである。

掛川の茶は広く展開されているけれど、北部のほうが地のちからが強い。南側は肥料をやったり被覆したりと手間が多いらしい。手間の掛かる地域の茶畑は、徐々にではあるけれど耕作放棄地が増えている。毎年、伸び放題に伸びた茶葉だけを目にすることが増えてきた。気がつくと宅地開発が行われているということもある。

開けた土地。それは居住地として適した土地でもある。平安時代に都として整備された京の都は平野にあたる。平城京もそうだ。現代人から見れば、濃尾平野や関東平野のような広大さは感じられないかもしれない。当時の人口規模では十分すぎるほどに広大な土地だったのだろう。都市部の周辺には広大な農地が広がっていたという。

山や川の恵みから程よい距離に開かれた平野。日本では、これが都市開発の基本だったのかもしれない。

現代の都市部は、平野を目いっぱいに利用している。今でも周辺には農村があるけれど、その規模はかつてのものと比べれば小さくなっている。いくら供給しても消費する人口が多い。人口が多くなれば、平野部は都市開発の対象となっていく。その繰り返し。

江戸時代の地図を眺めてみると、大江戸八百八町と呼ばれていた地域がさほど広くないことが分かる。西は新宿辺りから東は両国あたりまで。その外側は農村だった。ベッドタウンとして人気の高い練馬や吉祥寺や三鷹は、畑が広がる耕作地帯。近隣の農業生産力が都市生活を支えていた。

都市生活とコンフリクトするのが農業なのかもしれない。日本の生活を長い時代支え続けてきたのは農業だ。その農業に適した土地は、都市生活に置き換えられている。つまり、双方にとって「便利な土地」の条件が同じということなのだろう。と思えるのだ。

もしそうだとすると、日本の食料自給率が低いのもうなずける。人口を支えるはずの農産業は、増えた人口によって郊外へと押しやられていく。その分コストがかかるようになるし、生産量も減っていく。このサイクルを150年ほどやってきていて、直近の半世紀ほどで加速している。

農地優先で国土を分配したら、一体どんな景色になるのだろう。こういうときは、極端な想像をしてみると面白い。とにかく農業生産性が最も高い土地は農地にする。大きな街を形成してはならない。となると、濃尾平野も関東平野も全くちがった景色になりそうだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。ひっくり返れば良いというつもりはないんだよね。ただ、農地と都市って土地利用の意味では競合しそうだなと思ってさ。産業革命期のロンドンなんかも同じだよね。

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