今日のエッセイ-たろう

食と観光を考えてみる。 2023年3月13日

世界中の観光業が低迷していたのは、それが新型コロナウイルスによる世界的大流行だったことは周知の事実だ。観光に関連する事業者は、大きな打撃を受けたし、その打撃に耐えきれなかったものは退場した。なんとか耐えている事業者も、その多くはこれからが正念場であるだろう。

飲食業界は、もっとも打撃を受けた業種のひとつだ。飲食業は政治力が無いに等しいので、パンデミックにおいてはやり玉に上がることが多かったこともある。飲食業を助けてくれという意味で言うと、なんだか甘えているような気もするかもしれない。そうではなくて、国全体の経済を考えた場合に、これから先もある程度の市場を担保しておかなければならないはずだと思うのだ。

それは、来るべき観光立国としての日本の躍進のために、だ。

確かに、日本の飲食店の数は多いと思う。当店のような小規模事業者がとにかく多い。正確な統計はどうなのか知らないけれど、もしかしたら人口あたりの飲食店の多さは、多いほうなのじゃないかとすら思っている。あくまでも感覚の話だけど。もしそうであるならば、ある程度はシュリンクしたほうが良いのかもしれない。

だとしても、である。パンデミックが過去のものになったとき、飲食産業は絶対的な価値を生み出す。日本のそれは、海外とは比較にならないほどの経済価値を生み出すはずなのだ。

パンデミック直前の訪日外国人は3000万人を超えていた。他国と比べると、同等水準の国々はたしかにあった。やっとキャッチアップしたというところである。しかし、その数年前まではわずかに400万人程度だったのだ。この伸び率は、他に比べるもののないところである。

パンデミックがなければ、同じ伸び率で右肩上がりのグラフを描いたかというと、そうではないだろう。間違いなく徐々に緩やかにはなる。しかし、訪日外国人のポテンシャルとしては8000万人から1億人程度は見込んでも良いだろう。それだけ、日本は観光地として注目を浴びているのだ。それは、近年のアンケート調査にも明確に現れているそうだ。

外国人観光客が日本を訪れたい理由。そこがポイントである。数年前からカジノを構想しているらしいのだけれど、カジノで遊びたい欧州の人たちが、そのために日本を選ぶ理由は薄い。来日したついでに、あれば行くかもしれないという程度だろう。安全であるから、清潔だから、というのはほとんど理由にならない。想像してみて欲しい、例えばどこかに、とても清潔で安全な国がヨーロッパあたりにあるとする。特に観光として見るものがないのに、そのためだけに訪れるだろうか。何か他の魅力があって、安全や清潔は付加価値でしかないのである。

観光地としての日本に求められる魅力は、大きく分けて3つだと言われている。自然、文化、食だ。

日本に暮らしていると、自然の豊かさに気が付きにくいかもしれない。けれど、先進国の中でもこれほどの豊かでバリエーションに富んだ自然環境を抱える国は少ない。海があり、山があり、川は水が透き通っていて、多様な生物が暮らしていて、美しい四季折々の季節を楽しむことが出来る。しかも、都会からさほど遠くないところにそれらがある。そんな国は他には無いのだ。

そもそも、日本の国土のほとんどは山。日本で一番大きな平野は関東平野でしか無いのだ。国土のほとんどが平野である国々から見れば、まったくの異世界だろう。加えて、広大な海。海なし県はあるけれど、そんなことは問題にならない。発達した交通網のお陰で、わずか1~2時間程度で海岸にたどり着くことが出来るような街が各地にある。

日本の観光資源を地政学っぽく考えると、とんでもなく有利な状況にいることがわかるだろう。

そして、文化はその環境にマッチングした状態で1000年以上の月日をかけて発展してきた。近代化してから縮小したり消えかかった文化もあるだろうし、忘れられている部分もあるかもしれない。しかし、今でも十二単を見ることは出来るし、禅や侘茶を楽しむことは出来る。木造建築や、仏像や浮世絵といった造形物は、いまでも美しい。そのものを見るためには、特定の場所にいかなければならないけれど、その場所に居なくても日本人は「伝統文化」という言葉とともにイメージを想起することが出来る。イメージ出来る程度に価値観を共有していて、なおかつ地方独自文化の中にどっぷり浸かっている。そして、それを語ることが出来る。これら全てを文化的な価値だとしたら、それはどれほど巨大なものだろうか。試しにアメリカにでも行って聞いてみると良い。日本人が日本の文化を知っていること、アメリカ人がアメリカの文化について知っていること。この差に驚くことだろう。

そして、食。これが独立していることが既にスゴイことなのである。よく考えてみれば、食というのは文化の一部なのだ。生活文化や建築文化と同列に食文化があって、全部合わせて文化のはずである。にもかかわらず、多くの有識者たちが「食」に可能性を感じているといって、わざわざ切り出して語るのである。それだけ観光政策にとっての「食」は重要なポジションにあるということなのかもしれない。

今日も読んでくれてありがとうございます。このままだと長くなりそうなので、今日は一旦ここまでにしようかな。なぜ、いま「食」が観光政策にとって、日本の経済にとって注目されているんだろうか。大きな話になってきたんだけど、結構大切なんじゃないかな。仮説を立てて、そこから未来の形を考えてくという感じ。

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武藤 太郎

1988年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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