表舞台に登場しない郷土の物語が気になる。 2023年8月24日

日本文化とはなにか、伝統とはなにか。そして、それらを見直した上でこれからの食産業界で、わたしたち日本が存在感を発揮する道を考える。と、そんなことを考える機会があったのだ。これが、なかなか面白い。

なんとなく、「日本らしいというのはこういうことなんだろうな」という感覚はある。言語化することは出来なくかったとしも、現代日本人に共通するイメージがあるような気がするのだ。けれども、そのイメージは「ツクリモノ」であるかも知れない。

明治時代、日本という中央集権国家になった。ひとつの大きな文化を持っているようでいて、それぞれがそれぞれの国として特有の文化を保有していたのが、諸国である。日本国内には、たくさんの国があって、さながら現代のEUのようだった。

当時、海外と対等に渡り合わなければならない環境の中で、「日本とはなにか」を示す必要があった。そうした中で書かれた書物が「武士道」「茶の本」「代表的日本人」だった。で、このときに日本は日本らしさの象徴として「わびさび」を用いることに「決めた」。

本当は、もっともっとたくさんの地域に根ざした文化が形成されていて、継承され続けていたはず。というのが、最近の興味の対象だ。郷土料理というと、そうじゃないものが存在していてるように聞こえる。標準語のような料理があるかのように錯覚する。だけど、日本には郷土料理しか無いと捉えた方がいいのじゃないかと思うようになったんだ。

握り寿司なんかは典型的な江戸の郷土料理。にも関わらず、いまやスシといえば全国的に握り寿司のことを指すようになった。その反動で、消滅したか縮小した食文化があるのではないだろうか。

それから、郷土料理と呼ばれているものは、各地域の自然環境や、社会環境に影響を受けて発展してきたものだろうと想像する。だとしたら、それぞれの地域にある背景がどうなっていたのかが気になる。で、それが現在どうなっていったのか。中央集権的なものに置き換わっていく過程も興味がある。

これを紐解くには、民俗学ということになるんだろうな。今まで、ほとんど触れてこなかったけれど、どうやらその時がきたらしい。

歴史に名を残すことのない人たちが連綿と紡ぎ出してきた文化。それらは、文字として記録されることなんかなくて、語り継がれる伝承だったり、慣習だったりといった形で残されている。民俗学の有名な本だけでは、日本という国全体をカバーするのは難しいんだろうな。かといって、自分の足で各地を歩くような時間も余裕もないし。どうしたものか。

書物で学べる歴史って、だいたい権力や体制の側なんだよね。で、そのなかで庶民の歴史も描かれてい入るのだけれど、それは権力に反発する存在や、虐げられる存在としての姿。そうじゃなくて、もっと豊かで楽しい時間もあったと思うんだよ。庶民が権力者になることはないし、大金持ちになることもない。とわかった上で、人生を全うした人々の暮らし。それを支えてきた食文化というものがあるんじゃないかな。

表舞台に登場しないものが集まって、表舞台の歴史に影響を与え続けてきた。そういう視点も取り入れられたら、なにか今までとは違って見えてくるものがあるかもしれないね。

今日も読んでくれてありがとうございます。食文化を知るためのツールがどんどん増えていく。歴史もそうだし、気候もそうだし、経済もツールの一つ。で、とうとう人そのものの挙動を見る必要ができたってことかな。食と人との関わりを知りたいんだから、そういうことになるのか。

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