今日のエッセイ-たろう

「○○を食べたい」と「○○で食べたい」との差分をじっくり考える。 2023年4月5日

「〇〇を食べたい。」というと、シンボリックな料理名や食材が当てはめられる事が多い。ラーメンにしようか、天ぷらにしようか、たまにはスシでもつまもうかっていう話だ。それじゃあ、蕎麦でも食べようかとなったら、どこに行こうかという話になる。いや、どこへも出かけないかもしれない。蕎麦屋に電話して届けてもらってもいいし、乾麺を茹でても良い。天ぷらそばだとしても、家庭で天ぷらを揚げれば良いし、それが面倒なら大抵のスーパーマーケットで手に入れることができる。

「〇〇を食べたい」というのは、そういうものである。興味深いのは、会席料理を食べたいとか、フランス料理を食べたいとは、あまり言わないことだ。もちろん、無いわけじゃない。けれども、何を食べたいかと尋ねられれば、シンボリックな料理名や食材が当てはめられることが多いはずだ。なぜだろうか。

蕎麦やラーメン、スシや天ぷらなどは、どこでも食べることが出来る。なんなら、日本でなくても食べることが出来る。もしかしたら、このあたりにヒントがあるのではないだろうか。

もう少し、思考を深めるために違うシチュエーションを想像してみよう。

「○○で食べたい。」

面白いものだ。たった一文字の助詞を書き換えただけで、全く異なった意味を持っていて、響きが異なって届く。この場合、場所を限定することになるのだろう。想像を広げるために、代入してみる。

日本で食べたい。あの店で食べたい。実家で食べたい。田舎で食べたい。公園で食べたい。料亭で食べたい。喫茶店で食べたい。海で食べたい。山で食べたい。披露宴で食べたい。

なんとも面白い。場所といってもいろいろなバリエーションがある。国や地域といった大きな概念でも成立する。公園や海と言えば、場所を特定しているようでいて、それ以外にも何かしらの状況を想起させる。披露宴でというのは、そもそもシチュエーションのことだが、同様に料亭で食べたいというのも似たようなニュアンスを含んでいる。

これは面白い。「を」と言った場合に想像される映像は、かなりピンポイントに料理だ。蕎麦ならば、ざるそばなのか、それとも温かいそばなのか、天ぷらが乗っているのか、などの違いがあるとしても、とりあえずは蕎麦という料理そのものを想像する。肉と言えば、ステーキなのか焼肉なのか、それともハンバーグかしゃぶしゃぶかと、料理のバリエーションが想起される。

「〇〇を食べたい」と言う場合に、コース料理が当てはめられにくいのは、想像の世界で絵を結ぶことが難しいからなのだろうか。ならば、頻繁にコース料理を食べている人なら具体的な映像に結びつけることが出来るのかというと、それまた疑問だ。なにしろ、店によっての違いがかなり大きいし、献立も頻繁に変わる。それに、品数が多いからどこに焦点を当てて想像すればよいのかわからない。一品ずつ提供されているから、全てが並んだ状態を想像することは難しいのだ。

当店は、まがりなりにも料亭である。だから、なかなか「○○を食べたい」ということでは選ばれていないのかもしれない。あるとすれば、それは「ふぐを食べたい」「すっぽんを食べたい」とピンポイントで指定されることが多いだろう。

リピート顧客の皆さんは、何を想像しているのだろうか。と考えた時に、思い至るのは「で」の発想だ。なんだかわからないけれど、店構えなのか雰囲気なのか、はたまたぼんやりとした料理のイメージなのか。もしかしたら、誰かの顔を思い浮かべているのかもしれない。

実家で食べたい。という言葉を選んだ場合に、脳裏に浮かぶ映像はどんなものだろう。あまり家のエクステリアは思い浮かべないかもしれない。どちらかというと、居間など家族の集う場所が多いのではないだろうか。当然ながら、そこには両親や祖父母の顔が並ぶだろうか。そして食卓に並ぶ料理は、内容は思い出されなくても、ぼんやりと器が並んだ風景を思い浮かべるだろう。

「で」には、他に代替の利かない強さがあるように思える。「を」の場合は、例えばロンドンの人がラーメンを食べたいと思ったら、市内で済ませられる。パリに旅行中でも可能だ。どこでも良いという強みがある。逆に、「で」の場合は、場所が特定されていれば食べるものは何でも良いということに繋がる。

一般的にセールスコピーでは「○○で食べたい○○」といった具合で、「を」と「で」をセットで使用する事が多い。「○○を食べるならここ!○○選」というのも同様だ。それはそれで良いのだけれど、一度分離して考えても良いのではないだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。店の集客のことを考えなくちゃいけないんだけど、うちはどちらかというとリピーターさんを増やしたいんだよね。と考えたら、「で」の発想が強くなるんだろうなあ。話を広げると、インバウンド政策とか地域観光流入なんかを考えるのにも「で」の発想が必要ってことなんだよね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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