たべものラジオが音声コンテンツになった経緯と、長編になりがちなワケ。 2023年6月25日

たべものラジオを始める前に、実は動画コンテンツを検討していたことがある。試しに店のホームページに掲載していた時期があるのだけれど、イマイチだったなあ。

イマイチだった理由はいくつかある。まず、そもそものクオリティが低い。一応、お茶についてなにかしら喋っているのだけれど、たべものラジオのような調査もほとんどしていないし、構成も考えていない。思いつくままに二人で喋っているだけという状態。

内容の部分もあるのだけれど、どうもカメラを前にするとどうしていいかわからないような感覚があった。慣れてしまえば、どうということも無いのだろうけれど、どこか所在なさげである。何度も繰り返して挑戦していたら、もしかしたら違った番組になっていたかもしれない。

音声コンテンツを選んだ理由は、シンプルに僕たちが日常から利用していたからだ。飲食店は、営業時間以外の作業もけっこう多い。いわゆる仕込みだ。その他にも、客室の掃除や準備、庭の手入れなどもある。そうした時間にはポッドキャストを聞きながら作業をしていたのだ。

動画を見ることが難しくても、音声ならば聞くことができる。そういうスタイルはずっと前からあった。持ち歩けるラジオを持って畑に行くという農家さんもいる。POPを作成する作業場ではラジオが流れている。自動車整備工場もそうだ。聞くことならば、他の作業をしながらでもできる場合がある。

料理人の多くは、実は料理の来歴を知らないことが多い。先日、とある醤油醸造家に出会ったのだけれど、その方も同じことを言っていた。醤油がどのように日本にもたらされて、その後どのように変化しながら日本の食卓に影響を与えてきたのか。それを知ってこそ、目の前にある課題に向き合える。そうおっしゃっていた。

料理人も同様であるのではないだろうか。

たべものラジオのシリーズを重ねる度に、自分たちの作る料理が変化しているのを感じている。思い入れも強くなるし、使い方も、工夫の幅も広がっていると感じている。知ることで作り出すものが変わる。そういうことは、食べ物に関わらずよくあることなのじゃないだろうか。ぼくらのような料理人は、クリエイターであると同時に消費者でもあるのだ。

守破離という言葉があるのだけれど、守るべき型があって、それを破っていくことがイノベーションに繋がる。だとするならば、破るべき型を学ぶことは保守的なのではなくて、革新のための一歩のようにも感じる。

こうしたことを、他の多くの料理人にも知ってもらいたい。と思ったのだ。ほとんどの場合、料理人は忙しくて勉強している暇が取れないことが多い。そうじゃない場合もあるかもしれないけれど、本を買って調べるという人は少数派らしい、ということは交流のある料理人たちとの会話からもよく分かる。実際、ぼくだってそうだ。献立を考えたり調理をしたり、料理に全力でぶつかっている時間が長いので、本から学んで理解するには時間が足りないのだ。

そう考えた時に、あまり考えなくてもできる作業中に聞くことができたら良いだろうと思ったのだ。さっそく探してみたのだけれど、そんな番組は無かった。動画ならいくつか見つかったのだけれど、多くは「目で見る」ことが必要だった。それに、ぼくが一番知りたいことがわからないという問題があった。ざっくりと知るだけなら良いのだろうけれど、飲食文化そのものを見つめるには少々情報不足。必ずしも役に立たなくちゃいけないということはないのだけど、飲食店を経営している身としては、これからの食について考えられるだけのモノが欲しかったのだ。

ぼく自身のニーズにあったコンテンツが見当たらない。もっと探せばあるのかもしれないけれど、見つけられなかった。しょうがないから、自分で作ることにしたというわけだ。はじめから音声だけで理解できるように工夫すること。「こちらを御覧ください」とは言わなくても分かるような工夫。面倒だし大変ではあるけれど、やるしかない。というのが音声コンテンツを作成することになった経緯だ。

そんな感じだったから、「学び始めるきっかけになれば良い」というスタンスではない。もちろん全てをたべものラジオだけで解説することなどはできないけれど、なるべく「聞くだけで完結する」ようなコンテンツを目指している。そもそも、勉強する暇がない人のために始めたのだから、そういうことになる。ぼくもこれを聞けば良い。というわけだ。結果として、各シリーズが長編前提になってしまったのだけど。

今日も読んでくれてありがとうございます。よく考えたら論理破綻しているんだよね。時間がとれないから聞く。って言っているのに、結局無理やり時間を捻出して勉強しているんだから。面白いことに、料理人のリスナーってあんまりいないらしいんだよね。いるのかな。わからないけど。当初の目的がどうあれ、このコンテンツを面白いと感じてくださる方々がいてくれて、本当に良かった。

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