今日のエッセイ-たろう

タンパク質を体の中で作り出す仕組み。 2023年6月29日

昨日に引き続いて「濃縮タンパク質」の話だ。この単語は、ブログを書いているときに自然発生したと感じている造語。一般用語ではない。簡単に言うと、タンパク質はいろんな植物にも少量ずつ存在していて、食物連鎖の中で動物などの特定の生物に濃縮されている。人間にとって、微量タンパク質をかき集めるというのは効率が悪いから、既に濃縮されたタンパク質を接種したほうが良いよね。という個人的な解釈である。

人類は濃縮タンパク質をどうやって確保するか、という観点でも「代替タンパク」の開発が進められている意味がわかる。

さて、人間以外の動物はどんなサイクルでタンパク質を濃縮しているのだろうか。動物ならば、何かを食べて、その中からタンパク質の材料、つまりアミノ酸を獲得する。そのアミノ酸を使って体を成長させている。成長した体の主成分はタンパク質だから、それを他の動物が食べて体内で分解して再構築する。そうやって体を作っているというおおまかな流れだ。前者の動物は草食動物で、後者は肉食動物ということになるだろうか。雑食である我々はハイブリッドの生き物だろう。

牛や象やキリンはどう見ても人間よりも大きい。よく考えたらスゴイ仕組みだ。彼らは草を食べて生きているのだけれど、牧草に含まれるタンパク質は多くはない。あの大きな体を維持するためには、かなりの量を食べなければならない。家畜の場合は、なるべく少ない飼料でなるべく効率よく体を肥大化させたいというニーズがあるからトウモロコシや大豆を飼料にしているのだろう。

気になっているのは、牛などが第一胃袋で行っている発酵のことだ。そこでどんな変化が起きているのだろうか。イネ科植物はケイ素というガラス繊維が豊富だから、発酵させて消化を助けるという程度にしか考えていなかったのだけど、よく考えたらそれだけということは無いはず。微生物が何かしらの有効な成分を作り出しているだろう。

「代替タンパク」に関するフードテックはいくつかのジャンルに分類される。大豆やジャックフルーツなどの高タンパク植物を加工するもの、化学的に細胞を増殖させる培養肉、発酵の効果で糖などをタンパク質に変化させるもの。

発酵の力でタンパク質を生成するというと、イマイチ想像しにくいかもしれない。我々日本人にとって馴染み深いのは、発酵させると美味しくなるという事実だ。この「美味しくなる」というのがとても重要なのだ。美味しさの源は「アミノ酸」である。アミノ酸はタンパク質の原料というわけだ。

もちろん、ことはそう簡単ではないだろう。詳しくは専門に語られているサイトなどを参照してもらいたいところだが、精密発酵というテクノロジーを使って、「欲しい成分を作ってもらう」のだ。欲しい成分、それがタンパク質であれば、まさに代替タンパクというわけだ。

ここで思考が飛躍した。この発酵菌自体を体内に保有することは出来ないものなのだろうか。そもそも人間の体内でタンパク質をどんどん生産することができれば便利だ。自然化で濃縮タンパクを生産している仕組みを体内にも保有する。そうすれば、濃縮タンパクを大量に食べなくても体を成長させることができるのではないか。こんなことが出来るのかわからない。わからないので少し調べてみた。

あった。パプアニューギニアの特定の人たちに見られる現象らしい。高地に住んでいる人たちは、主食がサツマイモで、1日あたりのタンパク質摂取量は日本人の半分くらいしか無いらしい。にもかかわらず、筋肉質で引き締まった体をしている。体もがっしりとしている。

どうやら、彼らの腸内には窒素固定菌という細菌がいて、サツマイモから発生する窒素を使ってアミノ酸を作り出しているらしいのだ。もちろん、これは日本人に真似できることではない。窒素固定菌がほとんど存在していないからだ。

日本人には日本人特有の便利な腸内細菌がいる。日本人にとって最も特徴的な腸内細菌といえば、海藻を分解するものだ。海藻からエネルギーを生成できる細菌を保有しているのは、世界に15%程度らしい。ところが日本人の9割はそれがある。この腸内細菌は、炭水化物をタンパク質に変える酵素を出す。だから、米ばかり食べていても「肥満が少なく筋肉質」という時代があったのだろう。近代以前の日本人がよく食べていた食事の特徴といえば、ご飯と食物繊維。海藻などに含まれる水溶性食物繊維も、野菜に含まれる食物繊維も他の文化圏に比べて圧倒的に多かった。この食物繊維が腸内細菌の餌となるわけだ。

つまり、腸内細菌のタイプという観点でみると、多くの日本人にとって適した食事スタイルが明確になってくる。それは、炭水化物と食物繊維と植物性タンパクを中心とした食生活だ。体格が大きくならないのではないかという疑問があるのだけれど、この点に関しては詳しい情報を見つけられなかったので宿題が増えてしまった。

今日も読んでくれてありがとうございます。結局、伝統的な食生活にはそれなりの意味があるのだろうね。良いから継続されてきたということなのだろうか。いや、それよりも食生活に合わせて腸内細菌を含めて体を変えてきたと考えたほうが適切なのかもしれない。世代交代による進化で体の仕組みが大きく変わるには、7世代かかるらしいよ。だとしたら、現代日本人は日本人に適した食生活を継続したほうが健康的だということなのだろう。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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