今日のエッセイ-たろう

テクノロジーの進歩が奪う仕事とは。 2023年4月18日

最近なにかと話題になっているChatGPT。興味本位で使ってみた人もいると思うけど、たしかに面白い。それこそ、ウィキペディアで調べられるような内容ならば、短くまとめて教えてくれる。まぁ、無料のバージョンでは、口からでまかせのような内容も含まれて入るのだけど。それにしても、本当っぽく聞こえる嘘を作り出せるという意味では、すごいことなんだろうと思う。

AIの進歩が著しいとなると、それによって仕事が無くなるという話題も一緒に盛り上がってくる。盛り上がってくると言うだけで、今に始まったことではない。まだスマホが市場に出始めたくらいの頃にも、もう会計士の仕事は無くなるだとか、事務職のほとんどはいらなくなるという話があちこちで聞かれていた。

自動車が普及し始める頃にも似たようなことはあった。既に発明されていた自動車が、フォードによって大量生産され始めた頃のことだ。まだニューヨークなどの大都会でも、移動手段は馬車だったし、路面電車だった。移動手段が自動車に置き換わると、蹄鉄を作っていた人たちや皮で馬具を作っていた人たちの仕事がなくなってしまうと騒ぎになったらしい。

あっという間に、交通手段の主役は自動車に置き換わった。そして、蹄鉄を作っていた人たちは、自動車の部品を作ったり、整備工になった。馬具を作っていた人たちも、自動車のシートや旅行かばんを作るように切り替えたという。ルイヴィトンは、その中でも有名なブランドに成長した。というのは、有名な話だ。

技術の進歩によって、人の手による仕事が無くなる。それって、実は良いことなんじゃないのだろうか。大量の人を投入するしかなかった農耕は、そのほとんどが機械の力で行われるようになった。少数の働きによって、より多くの人の食生活を支えることが出来るようになったわけだ。それによって、食料生産以外の労働に時間を割くことが出来るようになった。古い時代に哲学が発展したのも、奴隷労働などによって可処分時間があったからだという話を聞いたこともある。つまり、暇だったから出来たというのだ。

社会全体の生産性を考えると、なるべくテクノロジーの力を使ったほうが良い。というように思える。少ない労働力でものづくりが出来るのなら、それに越したことはないと思うのだ。10万人が生み出す価値と同等のものを、5万人分の労働力で作り出せる。もしくは、10万人で20万人分の価値を生み出すことが出来る。シンプルに考えれば、とても良いことではないか。戦後すぐの頃にも、どこかの偉い人が言っていたんじゃなかったかな。人類は、厳しい労働から開放されるというようなことを。

テクノロジーによって仕事が奪われる。その問題の根幹は、仕事がカネを生み出すものであって、それがないとお金が手に入らないということなのだろう。仕事が生み出す富の指標が、カネの多寡によって計測されていること。それが課題なのだろうか。

思考実験として、未開の村を想像してみる。人口は200人程度だとしよう。200人が農業や衣服の生産や、日用雑貨の生産に従事していて、全員が毎日8時間の労働を行っているとする。完全自給自足の生活だ。ある時、なにかしらの技術革新があって、半分の労働力で今までと同じだけのモノを精算することが出来るようになったとする。さて、その時の労働はどのように変化するのだろうか。みんなが均等に労働時間を4時間にするのだろうか。それとも、人数を半分にするのだろうか。

こうして考えてみると、平等性をどの様に解釈するかによって議論になりそうだ。新たな価値を社会に創出するためには、それまでの仕事から開放された人々が新しい仕事を生み出していくのだろう。

余った時間の使い方が問題になりそうだ。遊ぶというのでも良いし、新たなものづくりに励んでも良い。それらの発達によって、また周辺に新たな仕事が生まれるだろうから。その時に、本来なら不要な作業を仕事として定着させると、ブルシットジョブになるのだろうか。デヴィッド・グレーバー氏が指摘しているのは、そういうことなのかもしれない。彼の論理によると、本来ならば不要な作業をあたかも必要なもののように仕事にしているのは、社会的価値を生み出すことよりも給料を手にするための手段になっているという。技術によって淘汰される仕事にしがみつく構造を似ているようにも見える。

料理人という仕事は、もうある程度の割合で社会から淘汰されている。というか、再整理が進むのだろう。飲食店は、2つの価値があると言われている。一つは、労働の代替。家事代行と同じ様に、炊事をアウトソーシングしているという価値である。もう一つは、専門職としての価値の創出。クリエイティビティが、心や体の豊かさに繋がるというものだ。前者は、ずいぶんと前から進んでいて、近代日本人の家庭における食生活は激変している。もう、夕食を用意するために数時間もかける必要はない。一次加工品や電化製品もあるのだ。

そうなると、遊びの要素を多分に含んだ価値が料理人に求められるようになるのだろう。意味があるのか無いのか、いわゆる効率化という視点では無駄に当たる部分。それが、実は人生を豊かにすると思っているのだけれど、その無駄な部分にフォーカスしてクリエイティビティを発揮するのが料理人だということに定義されるのだろうなあ。

今日も読んでくれていありがとうございます。現在の職業に紐づいている設備とか物品が、もしかしたら柔軟性を縛ることになるのかな。せっかくあるのにもったいないというような感覚もあるもんなぁ。アフォーダンスってこんなところにも働くんだね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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