今日のエッセイ-たろう

個人と総合力のクリエイティビティ。2023年2月19日

最近はすっかりアマゾンのようなオンラインショップでの購入がとても多くなっている。そのほうが効率が良いからだ。調べ物をするのに必要な書籍は、膨大な書籍の中から探し出すところから始まる。そうなってくると、キーワード検索出来るということは強い。タイトルに含まれていたり、それっぽいことが書かれている書籍が検索される。それに、AIによって類似性や関連性の高い書籍をオススメしてくれる。偏りはあるものの、とても便利である。

先週、久しぶりに書店を訪れた。特に用があるわけでもなく、なんとなく書棚の間を散歩する。背表紙をぼんやりと眺めながら、時折気になったものに手を伸ばしてみる。近頃は視力が落ちてきているのが厄介だけれど、幸いなことにある程度距離を離せば見えるで、ぼんやりと眺めるだけなら大きな問題ではない。

思えば、書店でのぼくの振る舞いは明らかにオンラインショップのそれとは違うということに気がついた。もしかしたら、検索効率の悪さがそうさせているのだろうか。大型の書店の場合、目当ての書籍を見つけるのは大変だ。本のタイトルが明確な場合は良いが、そうでない場合は難しい。そもそも、豆腐の歴史や砂糖の歴史といった書籍が、どんなジャンルにカテゴライズされるのか未だによくわからない。多くの書店では出版社別に本が並べられているのだけれど、ぼくのように出版社ごとの特徴などを把握していない人間からすると、甚だ迷惑である。図書館のそれのように、ジャンルごとに分類してほしいと思うわけだ。

仕方がないから、ブラブラと散歩するより他にないのである。この効率の悪さも、実は好きなのだ。なんだかわからない本のタイトルに、どういうわけか手が伸びることがある。決して奇抜なタイトルばかりではない。そもそも、なぜそれを手に取ったのか自分でもよくわからない。それでも、手に取ってしまったのだから仕方なくパラパラとページをめくってみる。そんな偶然の中に、時として面白い出会いがあることも知っている。効率が良いばかりが良いとは言えないのだろう。どうせ、人生なんて効率が悪いのだ。

雑誌は書店で購入するに限る。あれは、スゴイ。創作物としてのクオリティが、他の書籍とは一線を画しているように思える。デザイン性の高さ、配色、記事の内容、構成。どれを取っても、おそらく個人でどうにかなるものではないという気がする。組織にしか出来ない所業なのだと思う。

著者がはっきりしている書籍は、個人クリエイターの作品だ。もちろん、その書籍に携わる沢山の人の力があってこそ成立するのだろうけれど、それでも個人の作品だろう。それと比べると、雑誌は団体戦。手工業と工場製品という比喩が良いのかわからないけれど、なんとなくそういった対比を想像してしまう。そして、書店というのは、それらが一緒に「本」という商品として並んでいるのがなんとも面白い。

個人競技と団体競技。スポーツになぞらえるなら、そういったことになるだろうか。外食産業の多くは、どちらに属しているのだろうか。大手外食チェーンは、団体競技なのだろう。ただし、それは雑誌のそれとは違う。本部に頭脳が存在していて、そこで全ての商品が設計されている。完全なマニュアルを構築して、現場はそれに従って忠実に再現することを求められている。狩野派の絵師集団と構造的には同じことだ。

雑誌の制作現場はよくわからないのだが、想像するとこれとは違うように思える。編集長という監督がいる。方向性を示して、チームメンバーが提案した内容を吟味して判断する。そういう仕事なのじゃないだろうか。だから、編集部スタッフも記者も個人の主観をもって記事を作成していく。デザインや写真もきっとそうなんじゃないかと思う。サッカーなどの団体競技では、選手の主体性を重んじる監督がいる。クリエイティビティは個人から発せられていて、それをどのようにまとめていくのかというのが監督の仕事の一つだ。

料亭はどうだろうか。知る限りは、親方やシェフの料理が先に存在していて、そこで働くスタッフはそれを再現することに注力する。基本構造は、大手外食チェーンのそれと大きく変わらない。違うのは、商品開発の部分が個人であるということ。だから、より個人の思想が強く反映されやすい。狩野永徳の画風が世に広く浸透したのは、まさにこの構造であるからだろうと思う。

雑誌のような、サッカーのようなチームで飲食店を形成することは出来ないのだろうか。あると思うのだけれど、身近ではあまり見ることがない。北欧料理を確立させたことで一躍有名になったNOMAは、それに近いのかもしれない。若いスタッフが自分なりの料理を考案して提案する。それを幹部が試食して、レストランにふさわしいかどうかを判断していく。再現するためのスタッフでもあるけれど、同時に提案者ともなれるのが面白そうだ。

個人的に実現したい飲食店のスタイルは、雑誌やサッカーのような総合創作だろうな。既存の仕組みに比べたら効率が悪そうだ。けれども、その効率の悪さが生み出す面白さが良いのではないかと思う。だいたい、料亭のように、ある種のアミューズメントとしての役割を担った飲食店に効率を求めるほうがどうかしている。非効率の中にある、余白を楽しむために存在しているようなものなのだ。その辺りがエンタメとしての価値なのだろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。外食産業というのは、書店にもまして検索性が低い。なにしろ一覧性が低いのだ。飲食店が立ち並ぶ区画というのは、書店みたいなものだろう。整理はされていないけれど、とりあえずは散歩しながら眺めること蔵は出来る。なんとなく立ち寄ることも出来る。グルメサイトはアマゾンのレビューを眺めるようなものだろうか。こうして、全く違う業界に置き換えて考えてみるのも面白い。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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