今日のエッセイ-たろう

判断を阻害する外的要因があるのだろうか。意志の外側で働く力を考えてみる。 2023年5月31日

一旦決めてしまったら、それを継続することに価値がある。というのが、ひとつの価値観として存在している。けれども、一方でそれが足かせになってしまうことも現実に存在しているようだ。

例えば、映画館に映画を見に行ったとする。で、30分ほど鑑賞したのだけれど、どうにも面白くなる感覚がない。好みの問題なのだろうけれど、自分には合わないと感じたとしよう。映画館を出るだろうか、それとも最後まで見続けるだろうか。

もちろん正解など無いとは思うのだけれど、合理的に考えれば映画館を出たほうが良いと思う。2時間の映画だとしたら、残りの1時間半をどのように過ごすかという選択肢が増えるからだ。ちょっと雰囲気の良い喫茶店に行くなり、読書するなり、他の映画を見るなりすれば良いはずだ。そうすることで、もっと楽しい時間を過ごすことが出来るかもしれない。

そのまま映画を見続ける場合の気持ちを想像してみると、ひとつには「このあと面白くなるんじゃないか」という期待、もうひとつには「せっかくお金を払ったんだからもったいない」という心情だろうか。もしかしたら、デートで訪れたために自分だけの気持ちで決められないという事情もあるかもしれない。

せっかくお金を払ったんだから。実は、この思考はちょっと危ないかもしれない。これがもし会社の事業だとすると、この先の展望が明るくないにも関わらず、そのまま継続するということになる。不採算だったり、余計なコストがかかったり、もっと注力したい事業や新しい事業にかけるパワーが足りなくなったりする。だから、初期投資のコストは損金として諦めて、その事業をやめるという判断をするわけだ。一事で気には苦しくても、やめることで別の選択肢が増えて、会社全体にプラスになる可能性がある。そういう判断。

と、ここまでは理屈で理解できる話。

ところが、世の中には「やめられない」がたくさん存在している。環境が大きく変わってしまっているのに、以前の計画に固執してしまうケース。

有名なところでは、地方空港の問題が取り沙汰されたことがあった。日本各地に空港を建設して流通をよくしようという計画が策定されたのは半世紀ほど前のこと。これによって良い効果をもたらしたこともあったけれど、それは計画の初期段階で空港を建設することが出来た地域だったらしい。数十にもなる地方空港建設の計画だと、平成になってやっと建設された空港もある。既に社会環境は大きく変わっているのだから、ホントはその都度判断をするべきだった、という話がある。ぼくは、専門家でもなんでも無いので、これについてはなんとも言えない。ただ、気になったのは「理由」。既に決められたことだから。これだけを判断基準にしてしまうと、現状に即した投資なのかどうかがわからなくなってしまう。

やめない。ではなくて、やめられない。正確には、やめられないと「感じている」のだろう。映画館の話だと、となりに友人がいるから自分だけでは判断ができないというケースもそれに当たるだろうか。本当は、声をかけてコミュニケーションを取れば済むだろう。お互いに納得すれば、その後の行動に変化をつけることが出来るかもしれない。もちろん、リスクも有る。友人は面白いと感じているかもしれないのだ。価値観の相違が、そこで明確になってしまう。異性との初デートだとすると、声をかけること自体に腰が引けるかもしれない。もうひとつリスクが有る。それは、映画館では会話することが難しい。ある意味コミュニケーションが阻害された環境だ。

つまり、本人の意志とは別に「やめることに対するブレーキ」が存在してしまっているとも言える。

投資、融資、補助金。こうしたものは、事業のアクセルにもなるし、一方で離脱することへのブレーキにもなりうる。ということがあるのだろう。その事業をやると言ったじゃないか。投資した人から見れば、その事業が有望だと思うから投資したのだ。当然のことだ。となると、経営者と投資家の間でコミュニケーションを図る必要がある。だから、取締役会があったり株主総会というシステムが組み込まれているのだ。と、僕なりに解釈している。進むもやめるも合意形成が必要ということだろう。

こうしたコミュニケーションが出来る環境は、健全だ。やめるという極端な判断ではなくても、合意形成もしくは、その過程で新たな道が開ける可能性がある。危ないのはコミュニケーションを阻害された環境である。補助金の仕組みは、それに近いケースが多い。

投資ならば、損金の負担は双方の責任ということになる。最終的にどういう合意に至るかはケースバイケースだけど、そもそも株式会社という仕組みがそうなのだ。だから有限責任という。ところが、補助金の場合は事業をやめるどころか方針転換をしただけで、補助金の回収というステップに進むことがある。間のコミュニケーションを飛ばして、だ。補助金は補助をするものであって、投資ではないということなのだろう。もちろん、補助金を悪用するケースがあるからその様になっているのだとは思う。ただ、補助金が経営の自由度を制限するのも一面では事実であって、それはチャレンジを抑制する可能性もある。本来、補助金はチャレンジを促すためのものだということが謳われているのだが。

成功率の高い挑戦、失敗のリスクが少ない挑戦。そういうものに関しては補助金はとても役に立つ。一方で、大きなチャレンジには向かないということなのだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。愚痴っぽい感じになってしまったかなあ。ちゃんと調査して書いているわけじゃないから、目に見える範囲で勝手なことを書いてしまったんだけど。今回は「やめる」ということにフォーカスしてみたんだけど、気になっているのは「行動を制限する仕組みが社会に内包されているのではないか」という疑問ね。ルールになっていることもあるし、なんとなく認識しているだけのこともあるし。ありそうだなあという直感でしかないのだけど、実際のところどうなんだろう。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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