今日のエッセイ-たろう

実は、日本人は遊びが得意な民族なんじゃないだろうか。 2023年7月9日

日本人は何でも「道」にしてしまう。山林を切り開き、田畑を潰して道を通す。遠方にいくときに不便だからといって、幹線道路を作る。その結果、豊かになった地域もあれば、中間の街が衰退したという事例も数しれない。道路という意味での「道」もあれば、求道の世界を表す「道」もある。

求道者(グドウシャ)は仏教用語として使われるけれど、求道者(キュウドウシャ)という読み方で「なにかの道を極めようとしている人」という意味になるらしい。武道、華道、歌道、茶道などがあるのだけれど、ぼくらはどういう感覚で「道」を捉えていて、なぜ「道」が使われるようになったのだろう。

日本語の語源は、御路らしい。「み」は経緯を表している。じゃあ「ち」は何かと言うと、生命エネルギーを表す言葉で、命、力、血、乳なども同じ意味で「ち」が使われているという説がある。古代日本語の話だ。音にはエネルギーを持ち、漢字には理の意味を持つのが「道」。

求道者となり、道を究めんとする日本人らしさのルーツが垣間見えるようで面白い。

日本文化における「道」というのは、平たく言えばオタク文化そのものじゃないかと思えてきた。日本以外のどこの世界に、鮒釣りのためだけの釣り針をあれほど多彩に細工をする人がいるだろう。あっちが良いかもしれない。いや、ここの池ならばこっちだ。竿との相性があるとか、好みがあるだとか。釣り人が自分で作ることもあるし、専門職が作り出す世界もある。

求道者といえば求道者。なのだけれど、同時に遊びでもあるように思えてならないのだ。凝り性にも程があるだろうに、とことんやってみるという性分が備わっているのだろう。こんなもんでいいや、とはならない。そんな人がいるということだ。

誰も彼もが凝り性というわけじゃないだろう。ただ、凝りたくなる領分というのがあって、そこだけは譲れないという世界では誰もがオタクになり得る。こんなことを言ったら叱られるかもしれないけれど、ワビサビの文化なんかは行き過ぎた凝り性が結実した世界のようだ。

完璧な美など面白くもない。少し欠けているくらいが、味わい深くていいじゃないか。ということが言えるのは、見事な完成品を作り出すことが当たり前のように出来る世界だからだ。

日本人は休日の過ごし方が下手だという。これをもって、遊ぶのが下手だということも言われる。本当にそうだろうか。畑仕事をするのも、盆栽を育てるのも、帆船模型やガンプラなどなど、そこまでやるかというくらいに没頭する遊びはいくらでもある。城巡りをする人もいるし、好きな俳優の映画を全部見るという人もいる。東海道を歩いている人もいるし、道の駅巡りやカフェ巡り。スポーツに興じている人もいる。十分に遊び上手な文化だと思う。

日本の歴史は、ついに仕事を遊びにしてしまったし、遊びを仕事にしてしまった。華道にしても茶道にしても、元々は必要性があって初めたことかもしれない。釣り針に凝るのも、料理の研究開発をするのも仕事だっただろうか。それとも、趣味が高じて人から頼まれるようになったことが仕事になったのだろうか。

いずれにせよ。そこまでやるか。と言いたくなるくらいに凝るから、一定のレベルに到達した時点で、アートになる。利便性だけじゃ納得できないのだ。美しさや面白さ、時には滑稽さ、更には意味性までもを付与していく。そういう遊びをしているのだ。

日本が世界に発信できるコンテンツとは、実はこうした極限まで突き詰めた遊びなのかもしれない。勝手にルールを作って、その中で究極までに技術と芸術性を高めていくという遊び。料理は遊びというのが僕の主張なのだけれど、あながち間違いではないような気がしてきた。

今日も読んでくれてありがとうございます。ヴィーガン食やハラール対応食なんてものは、その文化がない人にとっては少々面倒だ。けれど、新しいゲームルールだと思って料理を突き詰めていくと、また違う世界が見られて面白いかもしれないね。精進料理の多様性は、ハードモードゲームから生まれた技術や意味性のようじゃないか。

タグ

考察 (298) 思考 (225) 食文化 (220) 学び (168) 歴史 (123) コミュニケーション (120) 教養 (105) 豊かさ (97) たべものRadio (53) 食事 (39) 観光 (30) 料理 (24) 経済 (24) フードテック (20) 人にとって必要なもの (17) 経営 (17) 社会 (17) 文化 (16) 環境 (16) 遊び (15) 伝統 (15) 食産業 (13) まちづくり (13) 思想 (12) 日本文化 (12) コミュニティ (11) 美意識 (10) デザイン (10) ビジネス (10) たべものラジオ (10) エコシステム (9) 言葉 (9) 循環 (8) 価値観 (8) 仕組み (8) ガストロノミー (8) 視点 (8) マーケティング (8) 日本料理 (8) 組織 (8) 日本らしさ (7) 飲食店 (7) 仕事 (7) 妄想 (7) 構造 (7) 社会課題 (7) 社会構造 (7) 営業 (7) 教育 (6) 観察 (6) 持続可能性 (6) 認識 (6) 組織論 (6) 食の未来 (6) イベント (6) 体験 (5) 食料問題 (5) 落語 (5) 伝える (5) 挑戦 (5) 未来 (5) イメージ (5) レシピ (5) スピーチ (5) 働き方 (5) 成長 (5) 多様性 (5) 構造理解 (5) 解釈 (5) 掛川 (5) 文化財 (4) 味覚 (4) 食のパーソナライゼーション (4) 盛り付け (4) 言語 (4) バランス (4) 学習 (4) 食糧問題 (4) エンターテイメント (4) 自由 (4) サービス (4) 食料 (4) 土壌 (4) 語り部 (4) 食品産業 (4) 誤読 (4) 世界観 (4) 変化 (4) 技術 (4) 伝承と変遷 (4) イノベーション (4) 食の価値 (4) 表現 (4) フードビジネス (4) 情緒 (4) トーク (3) マナー (3) ポッドキャスト (3) 感情 (3) 食品衛生 (3) 民主化 (3) 温暖化 (3) 健康 (3) 情報 (3) 行政 (3) 変化の時代 (3) セールス (3) チームワーク (3) 産業革命 (3) 効率化 (3) 話し方 (3) 和食 (3) 作法 (3) 修行 (3) プレゼンテーション (3) テクノロジー (3) 変遷 (3) (3) 身体性 (3) 感覚 (3) AI (3) ハレとケ (3) 認知 (3) 栄養 (3) 会話 (3) 民俗学 (3) メディア (3) 魔改造 (3) 自然 (3) 慣習 (3) 人文知 (3) 研究 (3) おいしさ (3) (3) チーム (3) パーソナライゼーション (3) ごみ問題 (3) 代替肉 (3) ルール (3) 外食産業 (3) エンタメ (3) アート (3) 味噌汁 (3) 道具 (2) 生活 (2) 生活文化 (2) 家庭料理 (2) 衣食住 (2) 生物 (2) AI (2) SKS (2) 旅行 (2) 伝え方 (2) 科学 (2) (2) 山林 (2) 腸内細菌 (2) 映える (2) 誕生前夜 (2) フレームワーク (2) (2) 婚礼 (2) 料亭 (2) 水資源 (2) メタ認知 (2) 創造性 (2) 料理人 (2) 飲食業界 (2) 工夫 (2) 料理本 (2) 笑い (2) 明治維新 (2) 俯瞰 (2) 才能 (2) ビジョン (2) 物価 (2) 事業 (2) フードロス (2) ビジネスモデル (2) 読書 (2) 思い出 (2) 接待 (2) 心理 (2) 人類学 (2) キュレーション (2) 外食 (2) 芸術 (2) 茶の湯 (2) (2) 共感 (2) 流通 (2) ビジネススキル (2) 身体知 (2) 合意形成 (2) ガストロノミーツーリズム (2) 地域経済 (2) 発想 (2) 食料流通 (2) 文化伝承 (2) 産業構造 (2) 社会変化 (2) 伝承 (2) 言語化 (2) 報徳 (2) 気候 (2) (2) サスティナブル (2) 儀礼 (2) 電気 (2) 行動 (2) 常識 (2) 産業 (2) 習慣化 (2) ガラパゴス化 (2) 食料保存 (2) 郷土 (2) 食品ロス (2) 地域 (2) 農業 (2) SF (2) 夏休み (2) 思考実験 (2) 食材 (2) アイデンティティ (2) オフ会 (2) 五感 (2) ロングテールニーズ (2) 弁当 (1) 補助金 (1) SDGs (1) SDG's (1) 幸福感 (1) 哲学 (1) 行事食 (1) 季節感 (1) 江戸 (1) パラダイムシフト (1) 食のタブー (1)
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

-今日のエッセイ-たろう
-, , ,