今日のエッセイ-たろう

未来の食環境を再構築することと、人文知の価値。 2023年5月13日

昨日の続きです。読んでいない方は、ぜひ昨日のエッセイも読んでください。というか、文章を途中で切断したので、読まないと話がつながらないかもしれない。

どうも、人類というのはシンプルな答えを求めがちな生き物のように見える。麦が良いとなると、圧倒的に麦を重視するし、米が良いとなれば圧倒的に込めに傾斜する。それ以前の多様な穀物の食文化を持っていた日本も、江戸期を堺に大きく米に偏重した社会を形成した。もちろん、数百年程度で完全に米だけに置き換えられることはなく、蕎麦や麦などの穀類が郷土に根付いている。ただ、それはその地域での伝統文化であるというだけではなく、食料生産事情が影響しているのではないだろうか。現代でも蕎麦の産地として有名な長野県は、そもそも稲作に向かない土地環境なのだ。出来ないことはないけれど、多くは斜面であり、水田よりも畑作のほうが効率的なように見える。土壌問題もあるだろう。蕎麦は、人間の手数を考えると米よりも生産しやすかっただろう。だから、結果として日本全体を見渡すと穀物の多様性が保たれた、と見ることもできそうだ。

つまり、食の多様性は、その土地の風土が担保してきたのだと言えるだろう。その風土にあった食生活というよりも、その風土で作られる農作物には限りがある。それぞれの土地にはそれぞれの食物の適性がある。というのが、近代以前の社会だったようにみえるのだ。

近代以前。と表現したのは、土地と食物の適性な関係が崩れつつあるように感じているからだ。その大きな要因となっているのが、前述した通りである。食料の保存技術と移動技術。

ここまでの文脈を見返すと、こうした技術に否定的な立場のように感じるかもしれない。しかし、そうではない。むしろ肯定的である。ではなぜ、このような話の展開をしているのか。それは、技術革新やエコシステムの革新の中で、同時にリスクを認識しておく必要があると思うからだ。人類は、何度も何度も食料問題に直面して、その都度なんとか乗り越えてきた。乗り越えてきたから現在がある。その積み上げてきたストーリーをしっかり学ぶことで、理性でリスクを回避することは出来ると思っている。

スモールコミュニティの中で循環する食のバリューチェーン。スモールコミュニティがいくつも折り重なることで、大きな社会を支える仕組みになる。これも一つの在り方。

農業生産拠点を物理的に集約することで得られる生産効率の向上や、ロスの削減も考えられる。水資源の循環や土壌問題には偏重は向かないかもしれないけれど、そこに対して人類の知見をどのように生かしていくのかを考える。そういう在り方もある。

多様な生産の在り方から、最適な流通も再構築されることになるかもしれない。それは、地域コミュニティという規模であり、グローバルな規模でもある。それぞれの最適解を求め続けることになるだろう。ただ、移動距離が伸びれば伸びるだけエネルギー消費は大きくなるということも忘れてはいけない。バーチャルウォーターも念頭に置く必要がある。

食文化を守るために、郷土料理や特有の食文化をアミューズメントとしてビジネス展開していくこともあるだろう。そうした方法によって、食文化の多様性が担保される可能性は高まる。同時に、ビジネスばかり重視した結果、文化の本質や文脈を喪失するリスクも考える必要がある。

こうして書き出していくとキリがないのだけれど、それらは全て否応なくぼくたちの未来に展開されうる世界なのだ。

モノゴトは立体的に見る必要がある。と誰かが言っていた。バランスシートのように社会の「今」を切り取った時、表面に現れる事象だけではなく、その背後にあるモノを同時に見ること。関連するモノゴトを同時に見ることだそうだ。そして、それらのモノゴトがどのようなストーリーでここまでやってきたのかを見ることも求められる。過去の出来事に学びつつ、それらがどのように「今」に接続しているのかを見る。

「立体的に見る」を、ぼくはそう解釈した。だからこそ。革新が求められる今だからこそ、人文知が必要なのだと思っている。サッカーで言えば、フィールドを見渡す鳥の目線と、プレイヤーの視点の結合。そして、次の一手を選択していく。

どのプレイを選択するかは、一律である必要はないと思う。それぞれが、それぞれに「良いと思うこと」に突き進む。それこそ、多様性こそが自然淘汰を乗り越える秘訣なのだから。ただ、ちょっと横目で互いの存在を認識しあって、ときに言語コミュニケーションをはかり、アイコンタクトをし、競争しあい、認めあう、ということがあれば良いのだろう。幸い、食の未来に情熱を持った人たちは少なくなく、互いに連動しようという意識が高まっている。このゲームの勝利条件は唯一つ、食の未来の幸福な姿。ただそれだけである。

今日も読んでくれてありがとうございます。ポッドキャストでは、こうした意見はあまり言わないんだけどね。ほとんど、過去の話ばっかりしているから。だけど、現代の食問題や、フードテックの世界で挑戦している素晴らしい人達のビジョンを知ると、過去と現在が繋がって見えるんだ。さてさて、ぼくは何をしていこう。たべものラジオ以外にも、やれることはあるはずだ。なにしろ、ぼくもプレイヤーの一人なんだからね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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