今日のエッセイ-たろう

職業講話。勉強するってどういうこと? 2022年7月21日

今年も地元の中学校でお話をさせて頂く。もう毎年恒例のこと。普段は、まちづくりに関する話が多いのだけれど、今年は故あって職業講話。さて、どんな話にしようか担当の先生たちとちょっとずつカタチにしていく時期になったんだなぁ。

専門家の人の専門的な話は、マニアック過ぎて伝わらない。というのは、コーディネーターさんの言葉。実際そうなんだよね。微に入り細に入り、職人芸を話したところでわからないんだもの。だいたい、職人というのは話すのが得意じゃない人が多いんだよね。ま、しょうがないのだけどさ。だったら、インタビュー形式にしたらどうだろうか。という提案はスルーされちゃったけどね。

過去にも、何度か職業講話でお話をさせていただくことがあった。職業講話って、今どんな仕事をしているのかってことを伝える場なんだよね。これから、将来どのように生きていくかを考える材料になるんだってさ。確かに、現時点の話も悪くはない。その話から何を汲み取るかは、聞き手次第だからね。

なんだけど、彼らが社会にでる頃には現実が違っているんじゃないかと思うんだよね。ここ数年は、特別変化が激しい。かつては、100年くらい掛けて変化してきたことが、10年くらいで変わってしまっている。歴史を見れば明らかに早いんだよ。今やっていることの大半は、無いか、古い時代のこと、になっている可能性が高いんじゃないかってね。

未来のことはわからないんだけどさ。

となると、やっぱりどんな意思を持って生きているかを伝えるしか無いってことになるのか。どういう思考をしているのか、その結果どうなっているのか。そういう事例を話すしか無い。数年前も、そんなことを話したんだった。生徒たちよりも先生に響いたっていう感想をもらった。ということは、あんまり良い講話ではなかったんだろう。マーケットにマッチしていない。ビジネスで言えばそういうことになる。

どんな影響を受けるか。そういうところまで考えて、プレゼンした。でもなあ。そこまで考えなくても良いのかもしれんという気もしてきた。今ね。誤読するならしたら良いじゃん。むしろ、誤読こそクリエイティビティの源だ。好きに解釈して、独自の思考を進められたら良い。あ、生徒の思考が勝手に動き出すような仕掛けをしておけば良いのか。

学生時代。なんのために勉強をしなくちゃいけないんだ、なんて思っていた人も多い。あんまり考えずに、目の前にあるからやっていたという人、将来を考えて一生懸命に勉強した人。色々いるよね。ぼくは、ただただ目の前にあるからやっていたという感覚。その場の空気感に浸かっていただけだ。ちょっとゲーム感覚だったかもしれない。

あんまり質問されないかもしれないけれど、大人が答えに窮する質問がある。なんのために勉強するのか。瞬間的に返せる回答を持っているだろうか。祖母は至ってシンプルだった「バカね。勉強しなかったら馬鹿になっちゃうじゃないか。」なんとも乱暴な回答のようだけれど、的を射た回答なのかもしれない。

現代社会では、学習のフェーズ、実践と訓練のフェーズ、実力を発揮するフェーズと分割して捉えられることが多い。無意識なのだろう。学ぶことは大学くらいまでに完了させておいて、その先は行動へ移すということになる。いや、ならないよ。普通に考えて、そんなステップで成長するわけがない。

学びは一生続く。そう思っておいたほうがいいと思う。だいたい、学校で勉強した内容が、そのまま社会活動で使えることなんてない。言い換えると、社会生活で必要なモノゴトを学生のうちにすべて学ぶことが出来るワケがないのだ。

習うことはできるし、勉強することは出来る。それは必須レベルで必要なこと。だけど、それが全てではない。というのは、実感が伴わないからだ。よくある話だけれど、座学と実践は交互に繰り返されることで学びとして身になるということ。残念ながら、ホモ・サピエンスのほとんどはそのように出来ているのではないかと思う。身体感覚としてインストールしないと、使うことが難しいのだ。

では、なんのために学校で勉強するのか。である。ひとつには、基礎知識をインストールすること。当然だけれど、読み書き計算が出来なければ、その先のステップに進むことは出来ない。社会の仕組みであったり、歴史なども同様。社会動物として最低限知っておくべき知識をインプットして、いつでも使える状態にすること。まずは、これがある。

もう一つは、勉強の仕方を体に叩き込むことだ。前述した通り、おとなになっても学ぶことは多い。料理であっても経営であっても、おとなになってから学んだことばかりだ。だいたい、学校で教わるような料理でお金をもらうことが出来るわけがない。経営も然りだ。

教えてくれる場所はある。だから、お金を払って時間を費やせば基礎知識は与えてくれる。ただ、実戦経験から何を学び取るのか。この「何か」を教えてくれるところはない。その都度、自分の頭で思考するしか無い。解釈の仕方、思考のプロセスと言っても良い。パターンをいくつもインプットして、自分にフィットした思考回路を定着させておく必要がある。そう、大人になって必要な学習を的確に実施するために、だ。

おとなになって、何が必要になるのかはわからない。未来がわからないからだ。だから、学生のうちには浅く広く勉強をする。訓練をかねて、ついでに知識もインプットしてしまう。そんな感覚でも良いだろう。

とまぁ、このようなことを話したのかな。そもそも、当時中学生だった娘に尋ねられたときに答えた内容そのものだ。何かに興味を持ったときに、基礎知識があることと、学ぶすべを知っていることは、とても大きなアドバンテージになる。これが出来る人が必ずしも偉大な人だとは言わないけれど、賢者は必ずやっていることだから、まぁ間違いないだろうとは思うんだ。

調理師学校を卒業して、修行をして、店を開いて、それから軌道に乗るまでの期間を考えたら、ぼくは圧倒的に早かった。調理師学校も行っていないし、あんまり修行らしきこともしていない。父の店で、いきなり実践をこなし、自分で献立を考え、料理を作るようになった。3年もかからないんだ。ちゃんと勉強する術を知っていれば可能なのだ。もちろん、恵まれた環境とすさまじいプレッシャーがぼくをそこへ導いたのではあるけれど。

数年前の高校生から頂いた質問に、印象深いものがある。なぜ、トップクラスだった営業マンが料理人としていられるのですか?この答えは、たぶん学習方法を知っていたからだと思う。あとは、ご存知とは思うけれど、深掘りしがちな性分のおかげかな。

今日も読んでくれてありがとうございます。金銭的に大成功することはないだろうね。だけど、スキルだけは確実につく。それだけが良い人生じゃないんだけど、とりあえずサバイバルの力はつくよ。どんな時代でどんな仕事についても、それなりに生きていける。そういう力強さみたいなもの。結構便利だよ。大変だけど。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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