今日のエッセイ-たろう

観光プロモーションについて、ざくっと考察してみた。 2023年5月20日

今年に入って、久しぶりに外国からのお客様が増加している。掛川のような田舎町では、まだそれほどの実感は沸かないかもしれないが、それでも時折外国人を見かけるようになった。観光庁のデータを見る限りは、1-3月だけでも既に400万人以上の来日だそうだ。

インバウンドが、日本の経済復興のひとつの柱となるのではないか。と言われて数年が経つ。日本というマクロの視点で考えたとき、世界で市場評価の高そうな商材が観光資源だという発想だ。実際、数年前に観光客流入に関する各種の規制撤廃を行っただけで、インバウンドはあっという間に10倍ほどに増加した。

何を求めての訪日なのだろうか。まだ、その部分が不明瞭な気もする。一般的に、観光客が求めるものといえば「自然」「気候」「歴史」「食」と言われている。そのうち、何に比重をおいていて、どこに向かっているのか。もちろん、一概にどれかひとつだということはない。あくまでも、個人の趣味嗜好があって、何に強く惹かれるのかは個々によって違う。

例えば歴史に強く興味を惹かれる人だとする。もちろん、景色も楽しむし、桜や紅葉も楽しむ。行く先々で出会う食文化を楽しむことも有る。ただ、その中でも歴史文化に強い興味を持っているとする。だとすると、海外から見て日本の歴史を堪能できる場所を訪れるのが良いはずだ。

おかげさまで、日本という国のなかで古くからの歴史が無いという地域はほとんどない。固有文化が長い国だからこその強みである。それにしても、訪れた先のメインの観光商材がスキー場だったり、スキューバダイビングだったりすれば、ミスマッチの感は否めないだろう。ステレオタイプではあるけれど、京都を訪れたほうが幸せそうだ。

観光プロモーションは、個々の志向とマッチングさせる活動の一部。広く知ってもらうことと同時に、「我が地域はこういう志向の人に合いそうだよ」ということを知らせるための行動のはずだ。

そう考えると、なんでもあるよというプロモーションは興味を持ちにくい。確かに、現地に言ってみれば大抵のものは揃っているのかもしれない。掛川にだって、歴史も有るし自然環境も良いところがある。気候を楽しむアクティビティは乏しいが、春や秋のサイクリングは人気だ。古くから食文化も有る。そうなのだけれど、確実に濃淡があるはずだ。だから、プロモーションでは濃淡のうちの濃い部分を表明するのだろう。そう考えると、昨今の地域プロモーション合戦のようなものを見ていて「何もない」と言われる地域の人気が高まっているのもうなずける。なにしろ、他にないのだから「有るものだけを徹底的にプロモーション」するしかない。それが、伝わる。消費者にしても、全員が反応するわけではない。自分の志向に適していれば、好評価となるだけのことなのだ。

旅には、大きく2つの行動様式があると考えている。巡礼と開拓である。

巡礼は、現代的に言えば映画やドラマの舞台を巡ることだろうか。古くは、歌枕を巡る旅。日本でも最も有名な紀行文学である奥の細道は、和歌の歌枕を巡ったものだ。西行が歌枕を巡って、それぞれの地で和歌を詠む。西行の大ファンであった芭蕉は、同じ場所を訪れて西行が感じたものを、自分でも感じてみたいと思った。だから、西行の500回忌の年に旅に出ている。

もちろん、これは日本だけのものではない。東アジアであっても中東でもヨーロッパでも同様の現象は見られる。そもそも、巡礼というのは宗教的な行動を指し示す単語である。中世ヨーロッパにおいて、多くの巡礼者が訪れた地域で宿泊業や外食、土産物などが発展したということが知られている。フランク王国をおこしたカール大帝が巡った先は、ことごとく街が開かれていったという。

十返舎一九の東海道中膝栗毛に描かれているのは、お伊勢参り。これも巡礼である。葛飾北斎が描いた富嶽三十六景も、安藤広重の東海道五十三次も、もしかしたら旅人にとっての歌枕になったかもしれない。なかなか旅には出られないが、一度はこの景色を直接見てみたい。

これに対して、行ったことのない土地に行ってみたいという気持ちで旅に出ることも有る。動機は好奇心だろうか。こうした行動様式を開拓と表現した。少々長くなってきたので開拓については語らない。

こうした行動様式の違いは、思考の違いから生まれるものではないかと思うのだ。巡礼であれば、それは事前の知識があって、文脈をなぞるのが旅の面白みだ。二条城を訪れて、ここで大政奉還が行われたのかと感慨にふけるのだ。これに対して、建物や装飾や環境に注目しがちなのが開拓のように思える。どちらも楽しい。

そして、これらも濃淡だろう。一人の思考の中に両方があって、どちらかの比重が高いという程度のこと。ただ、プロモーションとしては意識しておいたほうが良いだろう。

あくまでもプロモーションに関しての話ではある。個々の趣味嗜好とのマッチングが大切なのだと思う。やりすぎると、興味関心の外にあるモノゴトを見逃してしまうことにはなる。それについては、スマホが知らせてくるニュースを見ればわかる。ビュー数を稼ぐためには、見られやすいニュースだけを届ける。一方で、新しい発見だったり、世界が拓けるという感覚は薄くなってしまう。

実は、ビジネスの世界では大手企業が既に実装している技術なのだ。ただ、それを行政やDMO事業者となると、急にわからなくなってしまうことがある。もしかしたらその典型になってはいないだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。こういうのを構築しようとすると、とんでもなくコストがかかるのよね。しかも、データの取得がとても難しい。旅行サイトが実装できないのは、個人の旅行の機会が限られているからなんだろうか。だったら、日常の買い物やニュースの閲覧傾向からオススメ旅行プランの生成って出来ないのかな。観光庁あたりで、基本データの取得と構築くらいまではやってくれると良いのだけど。市町村単位だと、たぶん予算的に厳しいだろうからね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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