今日のエッセイ-たろう

古いコンテンツは消費されにくいのか。2023年1月8日

最新のもの、流行を消費する社会が加速しているように思える。

古いコンテンツに良いものがあっても、それをわざわざ探してまで見たり聞いたりしようとしない。そうばかりでもないとは思うのだけれど、傾向があるとは思うのだ。例えば、風の谷のナウシカ。名作だし、何度か見たことがあるけれど、改めて見てみると面白くて見てしまう。見てしまうのだけれど、見せられないと見ない。金曜ロードショーのようなもので再放送でもされないと見ないし、誰かがナウシカのことを熱く語っていたのを聞いたときにちょっとくらいは、見てみようかなと思うくらいのものだ。なんのきっかけもなく、レンタルしてきて見るという行動には移らないのだろうと思う。特に、ジブリ作品はオンデマンドでは見られないから、そういったハードルもあるかもしれない。

古いもので良いコンテンツを楽しむためには、最新のものに比べて少しばかりハードルがあるように見えている。前述の通りのシチュエーションで、風の谷のナウシカを最新の映画に置き換えてみるとわかる。実際に見に行くという行動に出るかどうかは別として、感じ方が少し違うのじゃないだろうか。最新だったら、未知の体験を得られるかもしれないから見てみようか。そんな気持ちになるのかもしれない。

根拠もなく直感で話をするのだけれど、どうもこの傾向がより強くなっているような気がしている。実際のところはどうだろうか。

一度体験したら、もうそれで良い。もうわかった。という感覚はある。読んだことのある本は、あまり読み返さないということもあるかもしれない。推理小説を何度も読み返すという人はどのくらいいるのだろうか。推理小説は、種明かしというゴールに向かって読み進めるようなところもあるから、その意味ではネタバレしているのである。話の筋だけを楽しむのであれば、二度目の楽しみは薄くなるのか。であれば、再読しようという気にはならないのかもしれない。

そういえば、何度も読み返している本というのもある。漫画花の慶次の原作となった隆慶一郎の一夢庵風流記は何度も読んだ。司馬遼太郎の竜馬がゆく、池波正太郎の藤枝梅安、夢枕獏の陰陽師もそうだな。手元にある本がある程度絞られていて、新たに購入することもなかった時期があって、その頃は棚にある本をぐるぐると巡回していた。本棚を眺めて、そこにある本を手に取る。そういう意味では、漫画もそうだ。ワンピースだって封神演義だってコナンだって、ある期間では何度か繰り返したような気がする。

最新ではないものを楽しむというのは、それが実行しやすい状況が影響しているのか。上記は、それを示している。家の外に出かけること無く、目の前にある。手を伸ばせばそこにある。というのもひとつ。それから、最新のものが無い。コンテンツ量が限られているというのもひとつかもしれない。そう考えると、古典的なコンテンツの消費はオンデマンド配信によって消費量が変わってきているのかもしれない。手にとりやすさという意味で、だ。ただ、いつでも最新のものがどんどん流れ込んできているから、古いコンテンツに意識が向かない可能性もある。ただ、最新のものは有料であることが多いから無料の範囲内で楽しもうと思ったら、少しは古いコンテンツにも勝算があるかもしれない。

状況ではなくて、コンテンツそのもに傾向はあるのだろうか。名著と言われる書籍は、執筆された時期に関係なく良質だ。たべものラジオの勉強のために読んでいる本だって、最新のものばかりではない。数十年前のものや、豆腐百珍のように百年以上前のものもある。そこに価値があって、読みたいという衝動があれば読む。しかも、一年前に読んだ本をもう一度読むということもある。

研究系の書籍と、小説とでは再読の感触が違う。と思う。研究書籍の再読では、一度目には気が付かなかった学びに到達することがある。読み手である僕の知識や思考が変化しているせいだろう。確かに読んだことがあるのだけれど、知っているのだけれど、そこから発生する僕の中の思考が違うのだ。

小説の場合はどうだろう。ひとつには、上記と同じことがいえる。登場人物の心情やその移り変わりについて、一度目には気が付かなかったことに気がついたり、解像度が上がったりする。それこそ、結末を知っているからこそ読み解ける心情というものがあるのかもしれない。あと、結末を気にすること無く表現を楽しむ余裕があるのかもしれない。表現といえば、良い文章表現そのものを何度も味わうというのもあるか。何度も食べたことのある美味しい料理を、もう一度確認するように味わいなおす。そんな感覚に近いのかもしれない。

今日も読んでくれてありがとうございます。これから先のユーチューバーは大変だよなあ。全部じゃないけれど、常に最新のネタを仕込んで発信するような、ある種のタレントっぽい発信をしている人は、古い動画の再生回数は伸び悩むかもしれない。そう思うからこそ、たべものラジオはなるべく時期を限定する話をしないようにはしているんだ。この先どうなるかわからないけれど、5年後、10年後に聞いても楽しめるコンテンツでありたいよね。5年後に最初から聞き始める新規リスナーさんがいたら、嬉しい。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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