今日のエッセイ-たろう

家庭の中の仕事のカタチ。 2023年3月28日

家族の中で何かを売ったり買ったりすることって、あんまりない。世帯を別にしている兄弟であれば、売買はあるだろうけれど、例えば一緒に暮らしている夫婦間でのやり取りって、想像できないんだよなあ。いろんな家族のかたちはあるのだろうけれど、少なくともうちの家庭では考えられない。

お金というモノの入り口が一つなのだ。とてもリスキーな環境なのだろうけれど、事実そのような生活をしている。一つの蛇口から出る水を家族で分け合って生活している。だから、そっちのコップの水をよこせと言っても、結局出どころは同じなのだから意味がない。先日までの話で言えば、内の世界の中では金銭取引が不要というか、意味がないということになるのだろうか。

家庭という内の世界では、モノやサービスのやり取りは「贈与」が基本。例えば、洗濯などの家事一つとっても、金銭的な報酬はない。それは、妻から家族全員へのサービス贈与ということなのだろう。こうした表現はあまりにも味気ない。けれども、理解するためには良い。

どうも、金銭的な報酬が発生しないことは仕事として認識されないことが多いのだけれど、実際はそんなことはないんだよね。洗濯サービスは、外の世界とのやり取りになれば、それは金銭報酬が発生するビジネスになる。内の世界だからこそ、仕事によって生み出される価値を贈与しあって生活することが可能なのだ。

与えられた贈与に対しては、必ず報いなければいけない。ということはあまり意識しない。もちろん、感謝はするし、それを伝えることは必要なのだけど。なんというか、「リターンが必須」という世界観ではないのだと思う。贈与関係がぐるぐる回っている。幼い子どもたちは、役務を受け取っているだけのようにも見えるのだけれど、僕ら夫婦はそんなふうに感じていないわけで。むしろ、子どもたちの遊んでいる姿や笑顔は、それだけで心を豊かにしてくれる。良い表現ではないのかもしれないが、その姿そのものが「癒やしというサービス」にすらなっているとも言える。

内の世界では、金銭取引のような等価交換が成立しないのかもしれない。貨幣の持つ機能として、価値のモノサシとなることがある。このおかげで、社会全体で一つのものの価値を共有することが出来るのだ。しかし、内の世界では、自分自身の感じる気持ちで価値の多寡が決まる。つまり、受け手の気持ちひとつなのだ。

言い換えると、感謝の気持ちの量だ。外の世界で言うところの金銭が、感謝の気持ちに置き換えられる。ということは、いっぱい感謝するということは、たくさんのお金を払っていることに通じる様に見える。そして、その感謝の気持ちをしっかりと表明することで、サービス提供者は報酬を受け取っている。

表現がうまく出来ていない気がするのだけれど、内の世界で起きていることを無理やり外の世界に置き換えるとこういったことになるのではないか。という思考実験的なことを行ってみたわけだ。その結果、ぼくの言語化能力が追いついていないので、ややこしい表現になってしまったのだ。

さて、ここまでは「内の世界」を「家庭」として、その中の「仕事」と「報酬」の動きを想像してきた。この世界観の中では、「お金は外の世界との取引に必要なもの」という存在のように見えてくる。

そうなると、内の世界で生み出されるプロダクトやサービスだけで生活を営むことが出来るのであれば、貨幣はいらないということになるだろう。ただ、現実的にはそんなことは無い。家庭だけで自給自足できる生活は、現代においてはほぼ無いからだ。食料や衣料品、交通やエネルギー、医療など、必ず外の世界との取引が必要になる。

ぼんやりと妄想していると、ぼくにとっての「内の世界」ってどこからどこまでなんだろう、と思えてくるのだ。

例えば、海外で災害などの不幸が起きた時、報道では「日本人の被災者はいませんでした」と言う。近年では事実だけを伝えるようになったけれど、これを「不幸中の幸い」と表現することもあったらしい。この場合、「日本人であること」が仲間であって、それ以外は外の世界の出来事という認識になるのだろう。だとしたら、違和感を覚える人も多いだろう。似たようなことを「アメリカ・ファースト」という言葉にも感じたものである。

家庭、友人、親族、地域、国、文化圏。何でも良いのだけれど、内の世界はグラデーションなのだろう。それも、人それぞれに感じ方が違う。だからこそ、貨幣経済や複雑な社会システムが必要になったのだろう。2000年以上前の、小さな集落が点在していた時代では、それらが必要なかったということなのかもしれない。未発達ということではなく、そもそも要らない。社会が小さいからね。外界とのやり取りのためだけに貨幣があれば成立する。

今日も読んでくれてありがとうございます。だからどうだという結論は無いんだけどね。身の回りの世界を、どんなふうに解釈したらしっくりくるかなぁって、妄想してみただけなんだ。仲の良い友達がお客さんだと、ちょっと余分にサービスしたりすることってあるじゃない。特にリターンを期待するわけじゃなくて、ただ純粋に「したいからする」ってこと。そういうことなんだろうなあ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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