今日のエッセイ-たろう

日本人的な「空気読み」って、実はチームに必要な資質なんじゃないか。 2023年7月23日

人間という生き物も、実に環境に大きく左右されるのだろうと思う。生物的な話でもあるかもしれないけれど、今回は社会的な活動についてのことを指している。どのような環境で生活をするか、ということが個人の能力を上回る影響力があるかもしれないと思っている。

例えば、職場環境としての飲食店を考えてみよう。厨房に立っていても、なにも出来ることがないような状況だとする。それは、自分自身の持ち場の業務が無かったり、個人の技術や知識が及ばなかったりというネガティブな理由かもしれない。もしかしたら、優秀な部下が全てを順調にこなしてくれているから、やることがないのかもしれない。

さて、こうした状況下ではどのような行動に出るだろうか。ぼんやりと見ているしか無いのだろうか。それとも、他の部門の仕事、例えば事務作業や掃除などに移るのだろうか。短期的な効率を考えれば後者の選択肢が有効だろうことは言うまでもない。おそらく、仕事熱心な人ほど即座に他の仕事に移るのだろう。

けれども、それが必ずしも最善とは限らないかもしれない。というのが今日の話なのだ。

物理的にどの地点から何を見聞きして、何を感じるか。

ぼくらが成長したり、思考を巡らせるためには、こうした一次情報へのアプローチが有効だと思うのだ。いくらロジックを深く理解していたとしても、心から「そうか!わかった!」と「感じる」のは別の次元。よくある話だけれど、誰かが「心の底から感じた」と言っているのに対して「わかりきったことだ」という態度を取る人がいる。「心の底から感じた」と言っている人だって、そんなことは「わかりきっている」のである。それでも、体験を通してより深いところにたどり着いた直感があると言っているのだ。こうしたことは、多くの勉強と経験の組み合わせによって到達する感覚だろう。

これを前提に置くと、自分の持ち場の作業が無いからと言って、すぐさまその場を離れるのは得策とはいえない。他の人達が忙しそうにしているのに、なぜ今自分はやるべきことがないのだろうか。チームでクリエイションを行っている以上は、そういった視点は常に頭の片隅に置いておくのが良いかもしれない。

というのも、こうした状況は問を立てることで、深い学びと成長の機会そのものにもなり得ると思うからだ。もちろん、常にそれが良いとは言えないだろう。もしかしたら、ホールの準備が間に合っていないのであれば、そちらの補助が優先されるかもしれない。

こうした判断は、団体スポーツに置き換えるとわかりやすい。普段からサッカーに置き換えて考えてしまうくせがあるのだけれど、例に漏れずサッカーで考えるとしよう。

サッカーではオフザボールの動きがとても大切だという。オフザボールというのは、ボールに直接関与してない時のことだ。自分のポジションよりもずっと遠くのところにボールがある時、何を見てどう考えてどのように動くのか、である。チーム全体の戦況をしっかり観察して、そのうえで自分なりの最適解を導き出す。そして、それを実行する。

もし、職場で他の誰かが忙しそうにしている事があった場合、どうするか。会社全体のことではなくても、チームや部門の全体を考えて、そのために行動を判断する。ぼくらのような飲食店の場合は、「お客様に喜んでもらうこと」が目的にある。ゲームに置き換えるなら「勝利条件」である。もちろんバックオフィスもそのために動くのであるけれど、ことお客様が来店されるタイミングでは、バックオフィスよりも現場が最優先される。それは、店舗全体としての優先事項だ。

かつての職場で、自分の仕事はこなしているのだから、他の人のフォローには回らないという人がいた。皆が、ちゃんと自分のポジションをこなすことが大切なのはもちろんだ。しかし、状況は刻一刻と変化するし、誰でもミスは必ず発生する。チームの勝利条件を満たすために、ミスを挽回するために全員が動くことが肝心だろう。これは一例にすぎないのだが、現場の連動性というのは、集団そのものが一個の生き物のように動くことを求められる。

で、だ。この状況に直面したときに、実際に体を動かすことが出来るかどうかを考えると、それは経験がものを言う。だからこそ、サッカー選手は何度も繰り返しシミュレーションの練習をするのだ。試合中に似たような状況に直面したときに、より早く、より的確に行動に移すために。練習中に行動したことは、振り返って修正することが出来る。コーチはそのために存在している。

さて、ここまで考えを進めてきたところで、最初の例に戻ってみる。果たして、どのような行動が最も適切なのだろうか。結論を言ってしまえば、状況によるということになるのだろう。そもそも、例示した条件が曖昧だから、それはしょうがない。

ただ、こうした一見当たり前だと思う行動を一つ一つ疑ってみて、もしかしたら反対の判断が良いのかもしれないということを考えること自体が大切なのだろうと思う。想像の世界ではあるけれど、少しだけ経験値がアップする。イメージトレーニングに繋がる思考だ。

今日も読んでくれてありがとうございます。チームスポーツのメタファーで考えるとスッキリするケースを他に思いついた。ちゃんと言ってくれなきゃわからないよ。という人にはこう答えるのが良いかもしれない。「言われなきゃわからない程度なんだよ」とね。サッカーの試合中、チームメイトからの声がけも大切だが、同時に自らが常に観察して行動する事ができるというのが最低条件なのだ。置き換えるって面白いね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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