今日のエッセイ-たろう

楽しむための教養と見せ方。2022年10月9日

観光施策だったり、文化財の保護活用だったりと、行政に関わるお仕事で声をかけていただくことが多い。そんな中で、気になっていることがある。

ずっと気になっていることなんだけど、説明が分かりづらいなって。気になること無い?史跡の説明が書いてある看板を読んでも「いや、知らんがな」ってなる。ぼくも、まぁそれなりには日本の歴史を知っているという自覚はあるんだけどさ。知っている人にしか理解できないってことがある。

いわゆるハイコンテクストな文章だ。例えば、宮崎駿の風立ちぬでも、三谷幸喜の真田丸でも、ジョージ・ルーカスのスターウォーズでも、実は結構なハイコンテクスト。このシーン、意味がわからないって思うようなカットが入るんだよね。オマージュのもととなった作品なり時代背景なりを知っていると、知っている人には通じるというメッセージになっている。昭和初期の文化、戦国時代の歴史、アレクサンドロス大王の歴史。そういうのを知っていると、楽しみ方が増えるというのは、たしかにその通り。

とはいえ、知っている人ばかりじゃないよね。むしろ、知らない人のほうが多いかもしれない。で、これらの作品がスゴイのは、知らなくてもちゃんと楽しめるようになっていること。

観光地となっている史跡は、ローコンテクストへの配慮が少ないと感じるのだ。徳川家康はみんな知っているよね。というスタンス。まぁ、日本に生まれ育った人で徳川家康という名前を知らなかったら、それはそれでビックリするんだけどね。

例えば浜松城というお城に行くとするじゃない。結構有名な掛け軸があって、若き日の徳川家康が床机に座って、足を組んで頬杖をついて、苦虫を噛み潰したような顔をしている姿が描かれている。けっこう細身だ。で、これを見て何かを感じ取ってくださいって言われても困るんだよ。三方ヶ原の戦いで武田信玄にコテンパンにやられて、脱糞しながら逃げ帰った。この悔しさを忘れないために肖像を書かせた。このくらいのことは書いてある。知っている人には十分すぎる情報かもしれない。

三方原ってなんだ?なんで武田信玄?そもそも武田信玄ってどこの人だっけ?なんで戦ったの?あの有名な徳川家康が負けたの?負けたのに生きてるの?そもそも、浜松城って家康の城だったんだっけ?浜松出身なの?

時代背景を知らない人にとっては、なんだかわからない。ここにあげた疑問は、ホントにある話なんだよね。山内一豊が有名だと思っているのは一部の人。功名が辻っていうのは司馬遼太郎の有名な小説だけど、それも知らない人もいる。そんなもんだと思った方がいい。

じゃあ、見せ方をローコンテクストに合わせるのかというと、それじゃつまらない。知っている人からしたら鬱陶しい情報なのだ。いらない。かと言って、背景や状況を事細かに解説するのが良いかというと、それだけでもない。もちろん、史跡博物館などでちゃんとわかりやすく解説してくれるところもある。個人的にはありがたいのだけれど、それだけじゃ片手落ちなんじゃないかと思うんだ。

パッと見て、ローコンテクストでも楽しめる。なおかつ、ハイコンテクストの要素も含まれていて、わかる人だけがわかって楽しめる。目指すのはそんなコンテンツかな。

音声ガイダンスみたいなサービスだったら、それぞれに合わせた内容に振り分けることは出来るよね。ライト向け、マニアック向けとかさ。そういう分割の仕方もある。それから、良質な映画のように両面をカバーできたら最高だ。わかる人にだけわかる。くらいで良いから。そういう意味では物語性というのは、ひとつのポイントになるのかもしれない。背景がわからなくても、登場人物の感情がわかればそれなりに楽しめるから。

これ、書きながら「両面カバーするサービス」を妄想してみたんだけど、けっこう難しいかもしれない。少なくとも、ブログを書きながらふわっと思いつくようなレベルじゃなさそうだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。観客のことを信用しきってコンテンツを作る。このくらいは知っているよねって感じ?そういうのも良いんだけど、観光は観光でエンタメとして楽しみたいってのもあるよね。外国人にとって、日本の歴史を知らなきゃ楽しめないってのはちょっとハードル高いんじゃないだろうか。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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