今日のエッセイ-たろう

語り部の威力① 2023年1月19日

ディズニーランドといえば、世界で最も有名なアミューズメント施設。子供の頃はあまり興味がなかったのか、行きたいと言ったことは少なかったな。どちらかというと、お城巡りのほうが好きだった。せっかくカリフォルニアに住んでいたのに、ついぞディズニーランドには行かなかった。ユニバーサルスタジオやマジックマウンテンは何回か行ったんだけどね。

東京に住んでいる頃、当時お付き合いしていた女性がディズニーキャラクターが好きだったので、行くようになった。千葉県に限りなく近い東京だったから、その気になればすぐに行くことが出来たのも大きいかもしれない。以来、暫くの間は2ヶ月に1度はディズニーランドに行っていた。結婚してからは少なくなったけれど、子供がある程度の年令になったら、再びよく行くようになった。

そんなある時。ぼくは、一見異常な行動に出たことがある。同じアトラクションに続けて何度も乗ったのだ。妻も子供は、別行動。ぼくだけが繰り返し同じアトラクションに乗り続けた。それがジャングルクルーズだ。

一時は年に数回も通ったディズニーランド。ジャングルクルーズに乗るのだって、その時が初めてな訳では無い。特別に乗りたいと思ったこともない。なにしろ、しょっちゅう訪れているのだ。ファーストパスも取らないし、そのためにダッシュすることもない。今日が駄目ならまた今度、といった調子である。それに、ぼくが好きなのはエレクトリカルパレード。これがメインだと思っていた節があって、アトラクションはそれまでの前菜みたいに捉えていた。乗ったら楽しいし、乗れなくてもまぁ、それはそれで良いかっていうくらいである。にも関わらず、この時だけはジャングルクルーズにドはまりして何度も繰り返し乗ったのだ。

実は、当時の職場の環境が影響している。前職なのだけれど、ぼくはとある通信事業者の社員だった。営業部に所属していて、大手量販店を担当していた。来る日も来る日も考えることは一つ。どうやったら、その店の自社製品の売上が伸びるか。ただこれだけ。

そのために、展示を工夫したり、イベントを行ったり、自社スタッフの教育を行ったり、はたまた関連商品メーカーとコラボしたり、様々なことをした。もちろん、独断で出来るものではない。店舗の責任者に提案して、協力を取り付けなければならない。社内の予算も獲得しなければならない。そんな日常だ。

ある時、関連商品とのコラボが当たった。急激に売上を伸ばしたことから、他の店舗でも同様のコラボを提案して面展開を始めたのである。あれこれと工夫を重ねていくうちに、マイクパフォーマンスが効果が高いことがわかってきた。わかりやすいのは、実演販売に近い形である。

はじめのうちは、パフォーマーは客寄せパンダに徹していた。コラボ商品の存在を知ってもらって、興味を持ってくれたお客様に対してスタッフが声をかける。ぼくもパフォーマーだった。ところが、ある週末はスタッフの手が足りなかった。詳細を説明してくれる人がいない。そこで、だ。大勢のお客様に向かって接客を始めたのである。面白おかしく喋りながら、それでいてちゃんと良さが伝わるように。引っ掛けるのでも騙すのでもなく、正しく良さをアピールすること。購入に必要な条件も、全て舞台上で伝えきる。

これが、ハマったのである。普段から企業担当者を相手に商談をしていた経験が役に立った。そもそも、ぼくは営業職になる前に量販店の販売員をやっていたのだ。販売経験もある。イケる。そんな手応えを掴みはじめたころだった。

そんなときに、体験したのがジャングルクルーズなのである。

1度目に乗ったとき、メチャクチャ面白かった。目からウロコだった。ちゃんとセリフが用意されているのだろう。どこまでもよく考えられた台本だと思った。これはスゴイ。なめててごめんなさい。もう一度、ちゃんとセリフに注目して聞きたい。ということで、2回めの搭乗となったのだ。2回目までは家族も付き合ってくれた。

ところが、だ。2回目は全然面白くないのだ。そりゃまあ、完全にネタバレしているから仕方がない。家族もそう言っていたし、ぼくも最初はそう思った。それにしては、同じ船に乗っている他のお客さんの反応が違いすぎる。一体これはどうしたことだ。案外大したこともなかったな、と思っているうちに、船はスタート地点に戻ってきていた。

アトラクションの乗り降りする場所は、乗り物が混雑する。ちょっとした渋滞になるのだ。降りるまでの数分間は、前後の船がくっついた状態になる。ちょっとばかり空気がしらけるタイミングだ。そこで、ぼくは驚くべき体験をした。ぼくの乗っている船の前と後ろの船の案内係が、丁々発止のやり取りを始めたのである。こんなことまで台本にあるはずがない。しかも、ジャングルクルーズの世界観を壊さずにである。合わせて3艘の客が一様に笑った。

思えば、前の船も後ろの船も、遠くから歓声が聞こえていた。同じセリフのはずである。事実、2回めの乗船でぼくが聞いた内容は全く同じだった。これは一体どういうことだ。同じセリフ、同じ台本で反応が大きく違う。この謎を体験するために、再びジャングルクルーズの乗車の列に並んだのである。今度は、僕一人で、だが。

今日も読んでくれてありがとうございます。もう、15年以上前の話。なんのきっかけだったか忘れたけれど、最近になってこの話をしたんだ。そしたら、喜んでくれてね。文章で残せばいいのにって言うから、書き始めたんだ。そしたら、序盤だけで長くなったのである。ということで、明日に続く。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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